緋色の7年間

制約を原動力に。法律事務所の弁護士と大手企業の法務担当者が、時に制約と闘い、時に制約を迂回していきます。

基本書の使い方

◆何が問題となっているのか

本日は、基本書の使い方について書こうと思います。ゆるふわな私としては、そんなのどう使ったっていいじゃん、とか思ってしまうのですが、利用方法を自分で考えるのも意外と面倒で、「読みあたりばったり」になってしまうという経験を持っている人がけっこう多いことを知りました。さらには、「買って終わり」みたいな人もいることを知りました。それなら、基本書の読み方を「仕組化」すればいいかな、と思うので、今回はそれを試みることにしました。好きなようにアレンジしてください。気に入らなければ、廃棄してください。好きな方法でいいんです(てきとう)。

今回は、学生、特に、司法試験受験生を念頭に置いてみたいと思います(研究者志望の方その他の方は申し訳ないです)。主な読み方は、2通りでしょうか。

  1. 通読
  2. 辞書的活用

…うん、なるほど。これらは購入するときにも考えることだと思います。が、問題はその先にあります。だいたいの人は、この段階で考えるのをストップしますが、私としては、ここでストップするのは、かなーり疑問です。「だから?」ってかんじです。よくあるのが、基本書は3回読むべきだとか、いや7回読むべきだとか、ロー入学までに1周はしておくべきだ、などなど。うーん、なにか着眼点の置き方といいますか、考えるスタート地点が間違っている気がします。

上のあげ方をしたときの根本的な問題は、目的が忘れられているということです。上の2つの読み方は、方法ないし手段であって、目的ではありません。あなたは目的を考えずに本を買っていませんか? なぜ通読しなければならないのですか? なぜ辞書的に活用しなければならないのでしょうか? これらの質問に答えられないのであれば、まだ買わないほうがいいように思います。教養としてなら結構ですが、それならば、岩波新書日経文庫に低価格でありながら充実した内容の入門書が出ていますから、そちらを読めばいいでしょう。専門書は価格が高いですから、よほど財力がある人でない限り、あえてそれを買うのであれば、満足できる買い物にしたいものです。ついつい複数冊の基本書に手を出してしまいがちですが、その原因の多くは、目的をもって購入していないからであり、買うこと自体が目的化してしまっているからです。基本書を買って勉強した気になりやすい理由は、目的が購入それ自体にすり替わっているからなのです。みんなが買っているからといって、つられて買ったりしないでください。何か持っていれば優劣がつきそうな気がしますが、だいたいは気のせいです。基本書を買っても、使えなければ意味がありませんし、それ以前に、何に使うかを明らかにしなければ使いようがありません。

では目的とは何か? 司法試験受験生であれば、次のようなかんじでしょうか。

  1. 法体系を概観し、理解すること
  2. 事例問題を解くこと

これらが、目的にあたります。これらの目的を達成できさえすれば、ある意味で、基本書は読まなくても問題はないわけです。通読も、辞書的活用も、これらの目的を達成するための手段にすぎません。そこで次に、具体的に基本書をどのように使うのかを考えてみましょう。

◆目的① 法体系を概観し、理解すること

この目的に対応すると思われるのが、通読です。ここで即断しないでもらいたいのですが、問題は、具体的にどうやって通読するかなのです。通読について、字義通り「通して読む」ことだと思わないでください。「通読ね、読めばいいんでしょ?」という反応は分かりますし、私もそう思っていますが、おそらく私の頭の中の「読む」こととその人の「読む」こととはかなり異なっていると思います。

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ここで、目的に戻りましょう。あなたが基本書を通読するのは、法体系を概観して、理解するためです。暗記のためでも、事例問題を解くことでもありません。そうすると、「通して読む」といっても、読み方が変わってきませんか? なんだか限定解釈みたいになってきましたが、要するに、概観できる程度に細かい部分を飛ばしながら読めばいいのです。最初は、分からない部分も飛ばせばよいのではないでしょうか。重要なことは、一度にすべてを理解しようとは考えないことです。誤ってすべてを最初から理解しようとすると、基本書の最初のほうでとまります。絶対にとまります。民事訴訟法で言えば、「管轄」くらいでとまります。仮に最初のほうでとまっているのだとしたら、もっとざっくり読んでください。誤解があっても、いい加減でもいいんです。「とりあえず原則だけ押さえて、例外はすべて飛ばせばいいや」くらいに思ってください(上の図では、原則論からの通読をすすめていますが、要するに図の上から下に向かって読むことになります。後述する事例問題のときは、下から上に読むことになります)。だいたい概観できたら、基本書の頭に戻って、あるいは、好きなところから、例外を拾っていけばいいんです。おそらく全部の例外は拾えません。法学なんて、そういうものです(半ばなげやり)。基本書を3回読もうが、7回読もうが、数字に何の根拠もありませんから、そういう俗説は無視してください。大切なことは、目的を達成できるかどうかであって、何回読むかという手段ではありません。

◆目的② 事例問題を解くこと

ここまで読んでいただければ、だいたい察しがつくかとは思いますが、この目的に対応するのは、基本書の辞書的活用です。具体的な使い方を考えてみましょう。まず、事例問題が出てきたら、15分くらいで答案構成をすると思います。してなかったら今日からしてください。使っていいのは、六法だけです。分からなくても15分は条文とにらめっこして考えてください。で、その15分の後に最初にやることは、適用条文の確認です。答案例がついていれば、適用条文だけ確認してください。答案例がついておらず、条文がまったく思い浮かばないようなら、その事例問題はまだ早いので、上の通読に戻ってください。

ですが、たいていは条文くらいは思いつくはずです。そして、次に確認するのは、この事例では何が問題となっていたのかという点です。ここで、はじめて基本書を持ち出します。基本書の該当箇所を開いて、当該事案の問題点はどこなのかを確認しましょう。判例集の解説でも結構です。条文のどの文言の解釈の問題なのか、どのような要件の問題なのか、法体系のどの位置の問題なのか、なぜ問題となるのかなどを確認します。論証があってても、問題点が分かっていなかったら意味がありません。それは、偶然あたっていただけで、いわゆる論証のはりつけでしかありません。問題点を押さえれば、応用もできますし、場違いな論証を書くことも激減します。

問題点が押さえられたら、その問題点について自分の考えたことと、おそらくは判例があるでしょうから、その判例の結論とを比較してみます。最初から、判例の結論を押さえられているのであれば、それでもけっこうです。判例とは、原則として最高裁判決又は決定(文)のうち当該事案解決に必要不可欠な結論命題をいいます。したがって、高等裁判所地方裁判所の裁判例や、事案解決に必要不可欠とはいえない傍論、結論の理由付けについては、判例ではありません。「Pの場合は、Qと解するのが相当である。」(P→Q)という結論命題部分のみが、原則として判例になるのです。まずは、判例集あたりでここを押さえてください(できれば、判例の考慮要素まで押さえましょう)。判例は、不明瞭な場合もかなりありますが、必ず「P→Q」という構造になっています。事例判断の場合には、「以上の事実関係からすると、」という前置きがあるはずです。その場合には、どの事実がどう評価されたのかを確認しましょう(以上について「『判例』の読み方 入門編」参照)

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ここまできて、ようやく基本書の本領発揮です。今見たのは事例判断でなければ結論命題のはずですから、理由づけについてはまだ確認していません。その理由づけ(の要点)を基本書で確認するのです。理由づけが妥当しない問題が出てきたら、「ああ、これはこの判例の射程外なのだな」と理解できるようになります。判例が積み重なっていれば、基本書が、一般化された形で判例の立場を記述しているかもしれません。また、判例の見解を批判している基本書もあるでしょう。その場合には、なぜその判例を批判しているのかという点を押さえます。場合によっては、判例の立場では不都合な結論となる事例が提示されているかもしれません。仮にそのような事例が出題されれば、どう書くのかを考えておきましょう。このようにして、判例の射程を画定していきます。

◆まとめ

以上のように書いてみましたが、このほかにも色々な使い方があるでしょう。なんだか突き放すような言い方になりますが、結局はその人にあった基本書の使い方をすればよいのです。その際に、目的から考えるべきだというだけのことです。私はあなたの目的を知ることができませんから、上のように一定の集団に合わせて一般化した形でしか記述することはできません。目的が変われば、手段たる基本書の使い方も変わります。基本書を読むときも買うときも同じです。どのような目的で読んだり買ったりするのかを考えてみてください。基本書は、あなたの目的を達成するためのツールなのです。

 

▼刑法総論の基本書については、こちらをお読みください

▼刑法の基本書に関する誤解については、こちらをお読みください

▼実践的な判例の読み方については、こちらをお読みください

 

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