緋色の7年間

制約を原動力に。法律事務所の弁護士と大手企業の法務担当者が、時に制約と闘い、時に制約を迂回していきます。

『刑法実践演習』の感想

ここでいったん書籍紹介です。

なかなか面白い「判例付演習書」が出てきたので、紹介してみます。 

刑法実践演習

刑法実践演習

 

本書は、3部構成になっており、

  1. 重要判例編(総論12個+各論12個)
  2. 司法試験論文問題編
  3. 司法試験択一問題編

と、演習書としては珍しく正面から司法試験の問題を取り上げているところが特徴です。しかも、最新重要判例集とその解説付きです。本書の「はしがき」も、「演習書としては、かなりユニークな内容」を自称しますが、客観的に見てもその評価は適切と言えるでしょう。

第Ⅰ部の「重要判例」は、最新重要判例24個の紹介とその解説です。判例(論点)の「チョイス」が素晴らしいです。多くは平成15年以降に出されている最高裁判例で、新旧司法試験で素材となっている、あるいは今後間違いなく素材とされるであろうものが精選されています。本書の約45%は、この判例解説部分(第Ⅰ部)で占められています。基本書や予備校本、百選などの学習用判例集の不足部分は、本書の解説付判例集部分で補完できるでしょう。本ブログが触れてきた最新判例ないし論点もカバーされているので、本ブログはお役御免なかんじがします。もっとも、執筆者にもよりますが、解説は、当該判例に関する近時の裁判例や学説の状況を把握できる程度で、判例に関して論理的に筋の通った説明がなされているとか、判例の射程が精緻に分析されていてその規範と理由付けがかっちり書いてあるというわけではありません。ゆるふわーな私が言える立場ではないですが、学生向け判例付演習書としては、そのあたりの詰めが若干甘い気もします(最新判例が多く取り上げられているので、多少議論状況がすっきり整理されていなくともやむを得ない面はあります)。

第Ⅱ部の「司法試験論文問題編」は、平成18年度〜26年度までの(新)司法試験論文式問題刑事系第1問の問題(全9問)とその解説が掲載されています。解答例は付いていませんが、別途、市販の上位合格答案集を買えばよいだけの話ですから、他の演習書との比較においてそこまで気にはなりません。本書に加えて、法務省が公表している「出題趣旨」と「採点実感」を横において取り組めばよいでしょう。これらは、本書の解説中でもけっこう引用されています。ただ、紙幅の都合なのか研究者中心の執筆だからなのか理由はわかりませんが、解説の実務的な視点(事案分析的視点や下級審判例実務的視点等)がどうしても後退しがちであることは否定できません。また、第Ⅰ部の判例解説と同様、規範と理由付けがかっちり書いてあるわけではありません。全体的に見て、現行司法試験の論点密度に対して解説が薄いです。そのあたりをどう評価するか、人によるかもしれません。

第Ⅲ部の「司法試験択一問題編」は、司法試験の択一問題81問(たぶん)を体系的に配置し直したものです。解答(といっても記号ですが)はありますが、解説はほぼありません。が、分野ごとの冒頭に、ちょっとした出題傾向の分析が付いています。これがけっこう役に立ちそうです。

何か問題点を強調しすぎたような気もしますが、それらを差し引いても、最近の重要判例とその理論面の大筋が掴めるメリットは大きいように思います。本書を、最新判例集として活用するだけでも有益ではないでしょうか。個人的には、本書について、司法試験の問題を素材にした演習書というよりも「司法試験問題付最新重要判例解説」という印象を持ちました。

 

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