緋色の7年間

制約を原動力に。法律事務所の弁護士と大手企業の法務担当者が、時に制約と闘い、時に制約を迂回していきます。

よくわかる社会保障制度(ウソ)

1 はじめに

こんにちは〜

本日のテーマは「社会保障」です。

先日、うっかり「社会保障と保険の勉強会でもやりますか〜」みたいなノリで自主勉強会を企画してしまったために、泥沼になっている今日のこの頃。なにこの複雑さ。理論も体系もあったものじゃないじゃない。法改正多すぎ、省令・通達細かすぎ。

というわけで、その勉強会で使う予定のレジュメの抽象的な導入部だけをピックアップしてブログ記事に向けに修正してみました(手抜きじゃないよ!)。例によって非常に大雑把に考え方をつかむだけです。ゆるふわだし(FPやっとけばよかったー)

2 前提状況の確認

⑴ 個人の資産とそのリスクについて

えーと、社会保障制度の話になると、いきなり制度の概要から論じ始めることが普通なのですが、それは個人的には、かなり疑問です。制度の話だけされても、必要性を感じなければあまり意味がないのではないでしょうか。と、いうわけで、最初に制度ではなく個人(の資産)の側に着目して考えてみることにしましょう。ユーザー視点って大切だと思うんだ。

まず、以下に挙げるのは、私たちの手持ちの資産 asset の主要な構成です(たぶん)。貸借対照表 balance sheet でいえば左側の部分ですかね。そんなに深く考えず、イメージでいいのです。自分の持ってる財産の中で、額の大きそうなものを思い浮かべればOKです。なお、金額はてきとう。

   資 産     金 額

 ❶現金・預金  数十万円~数千万円

 ❷給与債権   数億円

 ❸有価証券   数十万円~数百万円

 ❹土地・建物  数千万円

ここからわかることは、額の大きい給与債権(❷)に付着するリスクが最も重要であるということです(普通の人は)。そこで、リスクの内容を分析すると、基本的には、労働契約の各契約当事者=2箇所に分けられます。

まず、使用者側に存在するリスクについて。これは、基本的には金融で言うところの「与信リスク」とほぼ同じです。就活とかでよく言われますが、「採用は企業にとって数億円の買い物」です。これを労働者の立場から見るとすれば、労働者は、採用によって当該企業に対する数億円の債権を取得するに等しいということになります。給料は労働の対価なので厳密には金融機能なんかないのですが、終身雇用などで雇用期間が長期になるほど実質的には与信リスクのようなものが増えます。つまり、将来、給料を支払ってくれないのではないかという不安が出てくるわけです。たとえば、勤め先企業の倒産、所属事業部の売却などなど。就職を債券の購入だと捉えれば、投資と同様に考えて、就活で有価証券報告書を見ておくのも当然ということになるでしょう。

次に、労働者側に存在するリスクについて。こちらが本題の社会保障と深い関係にあります。あくまでも給料は労務提供の対価ですから、反対給付となる労務提供が不可能もしくは著しく困難ということになると、給料がもらえなくなります。この点が、お金を貸したり投資したりする場合と、決定的に異なるところです。たとえば、労働者自身の心身の故障死亡離職などなど。労働者の死亡によって今後給料が支払われなくなるとしても死んだ本人は困りませんが、残された家族はとても困ります。離職については色々と理由があるので一概に労働者側のリスクとはいえないのかもしれないのですが、たとえば、親の介護で職を離れざるをえないとか、そういったケースもここに含まれてきます。

⑵ リスクヘッジ手段について

Q. 私たちの資産って何のためにあるの?(愚問)

A. 私たちが資産を保有するのは、次の理由からです。

  1. 自分の生活のため
  2. 自分以外の家族の生活のため

だからなんなんだという話ですが、要するに、特に上に述べた給与債権を失うと、これらに多大な影響があるということです。自分や家族が生活できなくなります。だからこそ、給与債権に付着するリスクなどに備える必要があるということなのです。

そこで、リスクヘッジ手段として考えられるのは何か。いかにして自分や家族の生活のために自分の所得を確保するか。リスク分散のために考えられるのは、次の3つです。

  1. 副業・転職等
  2. 投資
  3. 保険

①は、副業・転職等によるリスク分散です。簡単に言えば、上の給与債権(❷)の種類を増やしておいたり、あるいはいつでも別の債権に乗り換えられるようにしておくわけです。企業法務系法律事務所でいえば「専門を複数持つ」という考え方ですね。リ○○ートとか最近話題の働き方ナントカも同じ流れです。職業ポートフォリオとか呼ばれます。えーと、「ポートフォリオ」というのは、例えるならハリー・ポッターで言うところの分霊箱 horcrux。投資で言うところの「卵は分けて運べ」。ひとつが潰れても死なないようにする方策ということです。しかし、そもそも健康に働けない状況だと、どうしようもないですよね。

②は、投資によるリスク分散です。正真正銘の金融ポートフォリオ。他の資産(❸・❹)の種類を増やす方策です。詳しくは某ノーベル経済学賞論文とかその辺の新書参照。まぁでも、そもそも投資するお金がないと、どうしようもないですよね。

というわけで、消去法で③が選ばれます。広い意味での保険によるリスク分散です。通称「不幸の宝くじ」。そんな宝くじ、あたりたくないです。保険料支払いからの〜大数の法則です。そう! ここに社会保障制度の中核となる「社会保険」の仕組みが絡んできます。「社会保障」とか「社会保険」とかネーミングが紛らわしい上に厳密に定義されてないので、このあたりはてきとうで結構です。

で、保険には2つ。

  1. 任意保険(私法関係)
  2. 社会保険(公法関係)

ここから、【基本戦略】として、社会保険でカバーできないリスクを任意保険等でカバーするという考え方を採用すべきことになります。社会保険を知らないと、リスクの見落としや無駄な保険料支払いが増えることになるからです。

とはいえ、社会保険などの社会保障制度は複雑怪奇なんですけどね……

2 社会保障制度の全体像(ウソ)

⑴ ものすごーく大雑把に

50年勧告に基づく教科書的な4類型は、機能別になっていないので、おそろしく使いにくいです。ゆえに、この記事では、そのような用語法というか概念の括りを無視します。

前述いたしましたように、社会保障制度の中核が「社会保険」という強制の相互扶助の仕組みです。その背後には、「公的扶助」(生活保護)が控えています。また、その他政策的に支援される場面もありますが、基本的には、社会保険と公的扶助(生活保護)の2つが軸だと考えてください。

⑵ 社会保険

社会保険とは、社会全体の強制的相互扶助による所得保障を中心とした仕組みです。強制とはいえ、あくまでも対価として保険料の支払いが必要となります。この保険料を「社会保険料」と呼んでいますが、これは税金とともに支給額から控除されます(給与明細の控除項目を参照)。どのような保険となっているのかというと、だいたい次のとおり。

   制  度    機  能

 ① 年  金  所得保障(労働能力なし)

 ② 労働保険  所得保障(労働能力あり)、労働者の救済

 ③ 医療保険  医療費の一部補償

 ④ 介護保険  介護費の一部補償

えーと、労働保険(②)には雇用保険労災保険の2つが含まれますが、後者については、使用者が保険料を負担することになるので、給与明細を見ても控除項目となっていないはずです。また、介護保険料(④)の負担は40歳以上の者なので、若い人はまだ控除されていないはずです。

紛らわしい仕組みについて言及しておきますと、一つには「確定拠出年金」というのがあります。高校の政経の授業とかでやったと思いますけれど、年金制度(①)は「基礎+上乗せ」の2段階の設計になっており、前者を国民年金、後者を厚生年金と呼んでいます。さらに、実は「3段階目の上乗せオプション」があり、ここで注目されるのが確定拠出年金です。給付額(もらうお金)ではなく拠出額(投じるお金)が固定されているから「確定拠出」年金です。理屈的には、年金制度という強制相互扶助システムの一部なのですが、任意に拠出して運用できるので、実質的には非課税の資産運用枠です。保険というより、もはや投資ですね。

もう一つ紛らわしいのが、共済 mutual aid という仕組みです。年金などの社会保険とは異なり、任意の相互扶助という位置付けとなります。いわば社会保険の追加的・補充的な機能を果たすわけです。そうすると、共済と任意保険とは、機能的に重複することになります。実際には、どちらかを選択的・択一的に選ぶことになるでしょう。もっとも、法律構成というかスキームが組合法的な特別法ベースと保険業法ベースとで異なるので、リーガル・リスクの所在は微妙に変わってきます(このあたりはこのブログでは論じきれない無理)

⑶ 公的扶助(生活保護

対価不要の最低生活保障です憲法25条1項)。一応、私的扶養が原則ですが民法877条1項)個人主義の時代では、このような考え方は実際問題として通用しません。しかし、生活保護の制度は、非常に使いにくいです。なぜならば、役所がプッシュしていない制度だからです。なぜプッシュされないのかというと、建前上はスティグマのおそれ(「なんで俺たちが汗水流して働いたカネをろくに働きもしないやつが使っているんだ」「俺のほうが生活が苦しいのになんであいつはラクしているんだ」等の実際上の不満)があるからなどと言われていますが、どう考えても財源不足が最大の理由です。なぜ財源不足の問題を生じるのかというと、公的扶助は社会保険とは異なり対価が不要だからです。社会保険は原則として社会保険料が財源ですが、公的扶助は社会保険料にあたるものがないため、財源としての税金・予算配分の問題が出てくるのです。この点が制度設計にも影響しているものと思われ、補足性の原則生活保護法4条)、世帯単位の原則(同法10条)など非個人主義的な原理が、いまだに存置されています。

⑷ その他社会福祉

その他、経済的な意味での保険制度という括りから外れる仕組みがあります。たとえば、医療提供体制の構築・整備、障害者福祉・介護保障、児童福祉、母子・父子家庭福祉、育児支援などがあります。

3 まとめになってないまとめ

というわけで、ここから先は具体的・個別的に制度・商品等を見ていくことになります。要点としては、【基本戦略】として、社会保険でカバーできないリスクを任意保険等でカバーするという考え方と、【観点】として、リスクとは具体的に何か? 何に対してお金を支払い、また支払われているのか? を考えるということでしょうか。

【注意事項及び免責】
ブログ内のコンテンツの無断転載等はご遠慮ください。
また、当ブログは法律学習を目的とするものであり、実際に生じた法律問題の解決を目的としておりませんので、法律相談は適切な法律事務所までお願いします。記事中において金融商品に関して言及することがありますが、投資・投機等を勧めるものではありません。当ブログに記載された内容またはそれに関連して生じた問題について、当ブログは一切の責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。