症拠手記

すべてではない特異的な観点から法現象を綴ったもの。基本スタンスは「科学者」または「分析家」。専門的・閉鎖的より学際的・開放的な方向性。トップダウンよりボトムアップ。業界的にはある意味で文字通りのアウトロー。

これから法学を勉強する皆さんへ(序)

みなさんは「」って何だと思いますか?

はい、そこのあなた。ふむ、なになに。

…「社会のルール」?

なるほど。社会のルールですか。えーと、たとえば?

…うん、そうね、「交通ルール」とかね。

はい、なるほど、道路交通法と言い直しましたか。

じゃあ、サッカーのルールは「社会のルール」ですか?

「ルール」…ではありますね、ええ。

でも「社会」…じゃないんですか? サッカーは。

いやサッカーも「社会」に含まれるでしょう。人の集まりですから。

…ん、何か違う? どこが違いますか?

あー、法哲学者さんは出てこないでください、話がややこしくなりますから。

いえ、「社会のルール」にもいろいろあるね、ということです。

たとえば、倫理とか慣習とかは「法」じゃないですよね。例外はありますけど。

そういうのと「法」は何が違うんですかね。

わからない?

では、こう質問してみましょう。

もしそのルールを破ったらどうなりますか?

え? みんなから睨まれる?

そうですね、よい視点ですね。とても法律家の固い頭から出てこない発想です。

…はい、あなた。ええ、交通ルールを破ると処罰されるんですか。なるほど。

慣習を破っても睨まれるかもしれないけど処罰はされない、と。

処罰があると何が違うんですかね?

ええ、処罰されるのは嫌だからみんながルールを守るということね。

お、「インセンティヴ」ですか、あなたは経済学を学んだ方?

そうですね、我々は「強制力」と呼んでいます。

いま皆さんが指摘してくれたとおりです。

「法」とは、基本的には「強制力のある社会規範」です。

「規範」というのはルールのことね。

意味もなくカタカナより漢字を使いたい業界だから許してね。

ちなみに「コンピュータ」は「電子計算機」っていいます、いやほんとに。狂ってるよね。

そうです、「強制力」の有無が決定的です。本当は例外もあるけどね。

で、強制するのは誰?

国家ですね。

そうなんですが、なんで国家が強制するのよ?

自分で強制すればいいじゃない? ダメなの?

お金を貸した相手から貸したお金を回収するために殴ってみるとか。

え、めんどくさいからダメ?

いやいや、裁判によるほうがめんどくさいですよ。税金もかかるし。

それにダメって禁止することもないでしょう。

暴力的だからダメ?

じゃあお金を貸したら借りた人の財布から自分でお札を抜き取るのはダメなんですか?

家族を殺されたら、犯人に復讐するのはダメなの? なんでよ?

最近だと Metoo 運動とかやってるよね?

え、復讐は悪いこと?

そうかな、復讐してやりたいと思うのは自然な感覚だと思うけど。

「やられたらやり返す、倍返しだ!」とか言いません?

ほら、なんかスカッとしない? 悪いやつをやっつけられるんだよ?

そういうことじゃないって?

はるか昔はそういうこともやってたりしたんですよ。

たとえば、10世紀の古ゲルマン社会だと「フェーデ」とか言ったりしてね。

もう少しというかかなり時代が進むと、18世紀北米でコーネル・リンチが主導した自警組織による裁判とかもありますね。略して「リンチ」ってやつ。略しすぎて現象名が人名になってますけど。

こういうのを「自力救済」と呼んでいます。

で、皆さんの思っているとおり、自力救済は禁止されています

代わりに国家が強制するわけです。

なぜ?

それは、あー、えーと、『万人の万人に対する闘争』を避けるためってやつ?

ざっくりいうと、長期的には誰のためにもなってないし、戦いすぎて疲れたわけです。

ざっくりいいすぎましたが、まぁでも復讐は何も生まないのではなくて不利益を生むんですよ。対立してるときに逐一ドンパチやってたら身が持たないのです。という計算上の観念的な理屈だけどね。

このあたりは中学・高校の公民とか政経の授業とかでやりました?

そこから二段階の社会契約を結んだところまで覚えてます?

まず市民間で社会契約を結んで国家を樹立し、次に市民と国家との間で社会契約を結んだ的なお話。要するに、ドンパチしかねない無秩序な状態を解決するための理屈です。2つめの社会契約の契約書を「憲法典」と呼びます。

なんか「法」を説明しているはずなのに、先に「憲法」のお話が出てきてしまいましたけど、近代以前は救済してくれるのは国家じゃなかったのです。特別な身分を持った偉い人たちとかが救済してました。

で、国家にせよ法務官的な身分の人たちにせよ、「こういう場合はこうです」的なルールをつくって、それに基づいて手続きに従って判断するわけです。

というわけで、まとめると、自力救済を禁止して国家に救済を委ねることを前提に、強制力を持った救済ルールがつくられる。これが「法」である、と。近代法というべきかもしれませんが。

「法」がわかったからって何だって言うのさ的な(破)につづく。

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