緋色の7年間

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正当防衛と自招侵害

こんにちは~

本当に本当に寒くなってきました…(TT) 防寒対策に気を付けてくださいね~

◆何が問題となっているのか

今回のテーマは「自招侵害」です。論点名は聞いたことがあるとは思いますが、どこの要件の問題だと考えているでしょうか? 感覚的には「自分で侵害を招いておいて、それに正当防衛を認めるのはおかしい」ことはわかります。実は、学説では自招侵害が何の問題であるのかさえ定まっていません。司法試験の採点実感からもわかるように、多くの学生は自招侵害の問題をスルーしてしまいます。そこで、自招侵害には判例があるので、これを手がかりに、2回の連載を通して自招侵害が正当防衛のどの要件の問題なのかを明確にしておきたいと思います。

判例の展開

自招侵害判例(最決平成20年5月20日刑集62巻6号1786頁)は「事例判断」なので、やはり事実関係をそのまま引っ張ってくるしかないです…

(1) 本件の被害者であるA(当時51歳)は,本件当日午後7時30分ころ,自転車にまたがったまま,歩道上に設置されたごみ集積所にごみを捨てていたところ,帰宅途中に徒歩で通り掛かった被告人(当時41歳)が,その姿を不審と感じて声を掛けるなどしたことから,両名は言い争いとなった。

(2) 被告人は,いきなりAの左ほおを手けんで1回殴打し,直後に走って立ち去った。
(3) Aは,「待て。」などと言いながら,自転車で被告人を追い掛け,上記殴打現場から約26.5m先を左折して約60m進んだ歩道上で被告人に追い付き,自転車に乗ったまま,水平に伸ばした右腕で,後方から被告人の背中の上部又は首付近を強く殴打した。
(4) 被告人は,上記Aの攻撃によって前方に倒れたが,起き上がり,護身用に携帯していた特殊警棒を衣服から取り出し,Aに対し,その顔面や防御しようとした左手を数回殴打する暴行を加え,よって,同人に加療約3週間を要する顔面挫創,左手小指中節骨骨折の傷害を負わせた

(最決平成20年5月20日刑集62巻6号1786頁)

色を付けた部分の行為には傷害罪(刑法第204条)の構成要件該当性が認められ、同行為に正当防衛(刑法第36条1項)が成立するかどうかが問題となります。

普通に正当防衛の要件をあてはめていけば、この事案では正当防衛が成立します。たしかに、被告人が倒れた時点で一度、侵害が終わっているようにも思えますが、侵害者(A)が再び攻撃してくる可能性があるため、侵害の継続性は認められるでしょう(井田・講義282頁参照)武器対等でないとして防衛行為の相当性が欠けると考えるにしても、過剰防衛(刑法第36条2項)は認められるはずです。

ところが判例は、防衛行為の相当性ではなく、正当防衛自体の成立を否定しているのです。次回は、決定文を読むことで、最高裁の論理を把握してみたいと思います。

それではまた~

▼つづき


 

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