緋色の7年間

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204条の「傷害」

こんにちは~

クリスマスはいかがお過ごしだったでしょうか? 私はそれどころではありませんでしたが…

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今回のテーマは刑法204条の「傷害」についてです。答案等では、「傷害とは、人の生理的機能を障害すること」と書く人が大多数です。この書き方自体は構わないのですが、この見解(いわゆる生理的機能障害説)は、必ずしも判例の立場ではありません。判例は、「生理的機能の障害」という表現をあまり使わないのです。

大審院以来の判例によれば、「刑法第204条の傷害罪は他人の身体に対する暴行に因りて其生活機能の毀損即ち健康状態の不良変更を惹起することに因りて成立する」とされます(大判明治45年6月20日刑録18輯896頁)。すなわち、「生活機能の毀損」という表現を使っています。判例の「傷害」の定義は、「生活機能の障害」なのです。

では、判例の見解は、生理的機能障害説とどこが異なるのでしょうか。当初、判例は「生活機能の障害」に人の身体の完全性を侵害する場合を含まないかのような適用の仕方でした(前掲の大審院判決参照)。ところが、その後の下級審では、人の身体の完全性を侵害する場合を含むとするものが出てきます(東京地判昭和38年3月23日判タ147号92頁など)。なぜこのような下級審が出てきたのかというと、判例が必ずしも「生理的機能の障害」とは表現していないからです。「生理的機能」というと概念の範囲が狭くなってしまいますが、「生活機能」というと概念の範囲が広くなります。下級審はここに目を付けて、具体的な事案において妥当な結論を導こうとしたわけです。

昔は、女性の頭髪を切断したケースが問題となる具体的な事例としてあげられていましたが、最近では、意識障害が「傷害」にあたるかどうかが問題となり、判例はこれを認めました(最決平成24年1月30日刑集66巻1号36頁)。また、暴行によって発症したPTSDのケースも争点になっています。こうなると、答案上、「生理的機能の障害」では対処しきれないのではないでしょうか。下級審の裁判例の中には、PTSDのケースで傷害罪の成立を認めたものと認めなかったものがあります。したがって、最高裁判例が出されるのを待たなければならないわけですが、「傷害」=「生理的機能の障害」とする考え方は、成立しにくくなっているように思われます。

それではまた~

 

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