緋色の7年間

制約を原動力に。法律事務所の弁護士と大手企業の法務担当者が、時に制約と闘い、時に制約を迂回していきます。

承継的共同正犯(後編)

ようやく承継共の後編です…あいだがかなりあいてしまた、、(→前編

判例の展開

前編の内容を簡単にまとめると、本件の被告人は、被害者が一定程度暴行された後に共謀し、暴行に加担したということで、このような場合にも傷害の結果すべてが帰責されるのかということが問題となっていたのでした。本事案では、誰の行為からどの傷害結果が発生したのかは不明ですが、傷害結果のすべてが先行行為者に帰責されることは確定しています。

そこで、決定要旨を読んでみましょう。

前記1の事実関係によれば,被告人は,Aらが共謀してCらに暴行を加えて傷害を負わせた後に,Aらに共謀加担した上,金属製はしごや角材を用いて,Dの背中や足,Cの頭,肩,背中や足を殴打し,Dの頭を蹴るなど更に強度の暴行を加えており,少なくとも,共謀加担後に暴行を加えた上記部位についてはCらの傷害(したがって,第1審判決が認定した傷害のうちDの顔面両耳鼻部打撲擦過とCの右母指基節骨骨折は除かれる。以下同じ。)を相当程度重篤化させたものと認められる。この場合,被告人は,共謀加担前にAらが既に生じさせていた傷害結果については,被告人の共謀及びそれに基づく行為がこれと因果関係を有することはないから,傷害罪の共同正犯としての責任を負うことはなく,共謀加担後の傷害を引き起こすに足りる暴行によってCらの傷害の発生に寄与したことについてのみ,傷害罪の共同正犯としての責任を負うと解するのが相当である。原判決の上記2の認定は,被告人において,CらがAらの暴行を受けて負傷し,逃亡や抵抗が困難になっている状態を利用して更に暴行に及んだ趣旨をいうものと解されるが,そのような事実があったとしても,それは,被告人が共謀加担後に更に暴行を行った動機ないし契機にすぎず,共謀加担前の傷害結果について刑事責任を問い得る理由とはいえないものであって,傷害罪の共同正犯の成立範囲に関する上記判断を左右するものではない。そうすると,被告人の共謀加担前にAらが既に生じさせていた傷害結果を含めて被告人に傷害罪の共同正犯の成立を認めた原判決には,傷害罪の共同正犯の成立範囲に関する刑法60条,204条の解釈適用を誤った法令違反があるものといわざるを得ない。

(最決平成24年11月6日刑集66巻11号1281頁)

…ということで、事例判断としては「共謀加担後に暴行を加えて傷害を相当程度重篤化させた場合、後行行為者の行為は、共謀加担前に生じていた傷害結果については傷害罪の共同正犯とならず、共謀加担後の傷害を引き起こすに足りる暴行によって傷害の発生に寄与したことについてのみ傷害罪の共同正犯となる」としました。細かいことを言えば、単に共謀加担後に傷害結果の形成に寄与しただけでは足りず、「共謀加担後の傷害を引き起こすに足りる暴行」でなければならないとされているところに注意が必要です。そこまでに至らない暴行であれば、共謀加担後の傷害についても帰責できないということです。

この判断の理由は、共謀及びそれに基づく行為が共謀加担前の傷害結果と因果関係を有することはないからだとされています。近時の学説の理解と一致するものと考えてよいでしょう(たとえば、井田・講義473頁。因果的共犯論ないし惹起説からすれば論理的な帰結ですが、このあたりの学説の事情には立ち入りません)

原審は、①先行行為・結果の認識・認容、②自己の犯罪遂行の手段としてそれを積極的に利用すること、③一罪関係の3点を根拠に、共謀加担前の傷害結果についても後行行為者に帰責させていました。本決定は、原審のあげたこの3つの要素だけでは「因果関係」を補完することはできないとしたのです。原審の論理は、結局は、故意や正犯性を「修正」しただけで、因果関係がないことをカバーできていなかったのです。

さて、残る問題は、207条の同時傷害の特例ですが、正直な話、今のところ何とも言えないというのが実情のようです(照沼亮介「共謀加担後の暴行が傷害を相当程度重篤化させた場合の傷害罪の共同正犯の成立範囲」重判(2014)165頁参照)。ただ、207条を用いればこれまでの議論をすべてひっくり返すことになるので、実務上、同条の適用はためらわれるのではないかと予想されます。

◆まとめ

例によって論証っぽくまとめておきましょう。

 共謀及びそれに基づく行為が共謀加担前の結果と因果関係を有することはないから、後行行為者の行為は、共謀加担前に生じていた傷害結果については傷害罪の共同正犯とならないと考える。ゆえに、共謀加担後の傷害を引き起こすに足りる暴行によって、傷害の発生に寄与した限度でのみ、当該行為が傷害罪の共同正犯となると解すべきである。

 なお、刑法207条は刑事裁判の大原則の例外を認めた規定であって、制限的に適用すべきである。ゆえに、傷害結果について誰も帰責されない場合を除いては、同条の適用を控えるべきだと考える。

それではまた(あいだが空くかも)~

 

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