緋色の7年間

制約を原動力に。法律事務所の弁護士と大手企業の法務担当者が、時に制約と闘い、時に制約を迂回していきます。

「弁護士ドットコム」とは何か

◆弁護士ドットコムとは

こんにちは~

みなさんは「弁護士ドットコム」をご存じでしょうか?

同社のホームページによると、弁護士ドットコム株式会社は「日本最大級の法律相談ポータルサイト」です。実は、弁護士ドットコムは最近、東証マザーズに上場しました(コードは6027)。この業界では非常に珍しい上場会社なのです。

法学部生や法科大学院生は、「名前は聞いたことある」とか、「ニュース記事は読んだことあるよ」といった方が多いのではないでしょうか。多くはTwitterで記事が流れてきてそれを読んで知ったというパターンみたいです(稼働中のアカウントは「弁護士ドットコムニュース」@bengo4topics)。法律家の間ではまだまだ浸透していませんが、その分、成長性があると思われます。そこで、私が応援している企業ということもあり、(勝手に)紹介したいと思います~!

◆弁護士ドットコムの理念

弁護士ドットコムは、「専門家をもっと身近に」という理念を強力に提唱しています。企業理念の重要性は、この刑法ブログでも少し説明しましたが(→「あなたの組織がうまく回らない理由」参照)、弁護士ドットコムはその理念の重要性を認識した企業なのです。

創業者で現代表の元榮太一郎(もとえ・たいちろう)さんは、著書の中で「人と同じことをしたくない」(『弁護士ドットコム』(日経BP社、2015年)28頁)と思ってきたと述べています。たいていの人(特に弁護士や研究者)はこの考え方で破滅の道を歩むわけですが(→「『知識人』はいかにして破滅するか」参照)、元榮さんの場合には、これが「専門家をもっと身近に」という理念として他者に向いたことがよかったと思われます。他者のために差別化された考え方ができる人は成功します(と私は思っています)

◆弁護士ドットコムの事業内容

そこで、弁護士ドットコムの事業内容について見てみましょう。

弁護士ドットコムは東証に上場している株式会社なので、上場時の発行開示規制として有価証券届出書の提出が義務付けられていますから金融商品取引法25条1項1号、2項、3項、27条の30の2以下参照)、それを見れば何をやっているのかはわりと簡単に把握できます(なお、現時点で事業年度を一周していないので流通市場開示としての有価証券報告書はまだありません)

提出された有価証券届出書を見ると、

  • 弁護士プロフィール・弁護士検索
  • みんなの法律相談
  • 弁護士ドットコムニュース

の3つが事業の内容だと分かります(有届24頁参照。事業系統図は27頁に記載。ほかに「税理士ドットコム」も運営しているようです)

簡単に言い換えれば、弁護士ドットコムは、

  1. 弁護士を検索して依頼できること
  2. 知恵袋方式で弁護士に法律相談ができること
  3. 弁護士の書いたニュース記事の提供

の3つをやっているということです。

◆弁護士ドットコムのビジネスモデル

以上のように、弁護士ドットコムは、ビジネスモデルとしては「プラットフォーム」ですが、そうすると、どこで収益をあげるのかが問題となってきます。

クラウドソーシングなどの一般的なネット上の仕事の仲介業者は、当事者間で成立した仕事の仲介手数料で利益を上げているわけですが、弁護士の仕事を扱う場合には、弁護士法第72条の非弁禁止にひっかかるのではないかということが問題になります。

仮に弁護士が代表取締役社長を務める株式会社であったとしても、株式会社そのものは弁護士法人ではありませんから、有料で弁護士の仕事の仲介を行えば弁護士法72条に違反すると考えられます。しかし弁護士ドットコムは、あくまでも仲介手数料をもらわないことで、この問題を回避しています(詳しくは、元榮・前掲77頁以下を参照。なお、有届35頁記載の「事業等のリスク」(5)①b(b)も参照)

それでは、どうやって収益をあげているのでしょうか?

有届には、たとえば、「弁護士プロフィール・弁護士検索」だと「弁護士の注力分野、注力分野ごとの料金表、解決事例の表示等、より詳細な「弁護士プロフィール」の作成」及び「月額21,600円~54,000円(税込)」とあります。以前にも若干説明しましたが、マーケットでは自らを売り込む資料の提示が必要ですから(→「弁護士のための「ゆるふわ」キャリアデザイン論」参照)、売り込む材料となる「プロフィール」の記載内容はたいへん重要です。仕事を受注できるかどうかはプロフィールの書き込みに大きく依存するのです。弁護士ドットコムは、ここで収益を上げているわけですが、有料のプロフィールは一種の「広告」ですから、仲介手数料にあたりません(元榮・前掲127頁以下参照)

また、仲介手数料の回避という点で、「みんなの法律相談」の有料の部分は、過去の回答の閲覧に対する課金月額324円(税込)となっています。いわば「書籍」や「ニュースアーカイブ」と同じ扱いなので、非弁にあたらないわけです(元榮・前掲107頁参照)

このほかに、個人向けに弁護士費用保険弁護士向けの包括的なコンサルティング、企業向けにクラウド契約などを事業として打ち出していく予定みたいです(「2015年3月期第3四半期決算説明会」の動画参照)。「クラウド契約」とは、簡単に言えば契約書の電子化のことです。どのように証拠能力等を担保していくかが課題でしょう。私もこれらの必要性を感じていたので、ぜひ実現させてほしいと思います。

◆市場規模の拡大と財務状況の改善について

弁護士ドットコムの今後の展開については、ある程度予測できます。

現在、日弁連会員の20%が弁護士ドットコムに会員登録しているようです(有届25頁参照)。市場浸透率が20%ともなると、いわゆる「キャズム(≒アーリーマジョリティーを獲得しうる16%ライン)を超えたことになりますから、残りの弁護士が追随するのも時間の問題かと思われますイノベーション普及の法則

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(「Diffusion of innovations - Wikipedia, the free encyclopedia」より引用)

経営のほうですが、直近の自己資本利益率ROEが10.1%で、同時に赤字からも脱出しましたから、ものすごくざっくりな判断ですけれど、けっこういいかんじです。今期のROEの予測も、60%を超えるみたいです(日本の市場平均は4%くらい)

さらに、プラットフォーム型ビジネスモデルの弱点は、①より大きな規模のプラットフォーム(特に世界市場)への吸収、②よりニッチなプラットフォームからの挑戦の2点ですが(今枝昌宏『ビジネスモデルの教科書』(東洋経済新報社、2014年)73頁)、弁護士というドメスティックで閉鎖的な職業上の性質から、現在のところ競合はほとんど考えられません。事業内容と合わせて考えると、いわゆる「消費者独占型企業」になれるかもしれません。

◆まとめ

今回は、弁護士の立場を中心に大雑把に「弁護士ドットコム」を見ましたが、一般の利用者の目線も重要です。弁護士ドットコムが、これからの時代に必須の企業となってゆくかどうかは、最終的には「専門家をもっと身近に」という理念をどこまで徹底できるかにかかっています。今後も注目していきたいところです。

それではまた~

弁護士ドットコム 困っている人を救う僕たちの挑戦

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