こんにちは~
かなり暑くなってきましたね。最近になってカプチーノを自作できるようになったのですが、暑くなってしまったのでこんどは美味しいフローズンをどうやって作るか考えているところです。季節的に、突如雨が降ってきたりして、なかなか天候の変化が激しいですから、皆様、体調にはぜひお気を付けください…
◆出題趣旨と解説
問題と解答例は前回をご参照ください。出題趣旨は、以下の通りです。
【出題趣旨】
「危険の現実化」の基準について、関連する判例の理解を前提としつつ、その具体的な適用方法を問うものである。抽象的な規範の立て方に拘泥することなく、本事例における具体的な事情をどこまで拾ってどのように評価しているかが、本問では重視されることになる。その際、判例の事案と本事例とでは、どのような事実が異なるのかを意識した論述が望ましい。また、本事例は、各判例の事案と比べて因果関係を否定する事情を多く盛り込んであるため、安易に判例や学説の言葉を引用して因果関係を肯定する答案は評価が低くなる。なお、本問では、付随的にクロロホルム事件の正確な理解も問うている。
…と、ふつうはこんなかんじで書くんでしょうけど、まぁ所詮ブログなので、以下ではもう少しラフに考えていきましょうか。危険の現実化がメインテーマなので、未遂犯は別の記事に譲ります(→「未遂犯と『実行に着手』」参照)。
とりあえず、本問は判例の理解が前提なので、判例の確認をさらっとやっておきましょう。
素材判例の位置づけと判旨の要約(というかほぼそのまま)です。
【砂末吸引事件】 因果経過を通常予測しうる
当該殺害を目的とする行為がなければ犯行発覚を防ぐ目的をもってする砂上の放置行為を発生させることはなかったのであって、これを社会生活上普通観念に照らすと、当該行為と被害者の死亡結果との間に因果関係があると認められる。
【高速道路侵入事件】 因果経過を通常予測しうる
被害者が逃走しようとして高速道路に侵入したことは、それ自体極めて危険な行為であるというほかないが、被害者は、被告人らから長時間激しくかつ執ような暴行を受け、被告人らに対し極度の恐怖感を抱き、必死に逃走を図る過程で、とっさにそのような行動を選択したものと認められ、その行動が、被告人らの暴行から逃れる方法として、著しく不自然、不相当であったとはいえない。そうすると、被害者が高速道路に侵入して死亡したのは、被告人らの暴行に起因するものと評価することができるから、被告人らの暴行と被害者の死亡との間の因果関係が認められる。
【トランク追突事件】 因果経過を通常予測しえないが死因が同一
被害者の死亡原因が直接的には追突事故を起こした第三者の甚だしい過失行為にあるとしても、本件監禁行為と被害者の死亡との間の因果関係を肯定することができる。
前二者はいわゆる「誘発類型」です。当該実行行為によって自己又は被害者の行為が惹起されることは経験則上通常予測しうる「類型」です。「類型」なので、具体的事情次第でもちろん因果関係の有無についての結論が変わります。
しばしば見かけるのですが、「~という行為を誘発する危険性があって、それが結果に現実化した」と評価すると誤りです。細かいようにかんじるかもわかりませんが、危険の現実化の基準は、後続の行為を惹起する危険性に着目しているのではなく、あくまでも結果発生の危険性に着目しています。 自己または被害者の行為の介在自体が独自に問題とされているわけではありません。「介在事情の異常性の大小」あるいは「因果経過の経験的通常性」は、実行行為の危険性もしくはその実現結果の内容を判断するにあたっての一資料にすぎないのです(山口・総論2版60頁も参照)。この場合、表現としては、「当該行為には、~という行為を誘発し、~という結果を発生させる危険性があった」とか「~は、いわば当該行為から誘発されたものであるから、危険の現実化の関係が認められる」とかのほうがよいのではないでしょうか。「誘発する危険」と書かなければとりあえずOKです。無理に「誘発」という言葉を出す必要もないと思いますが…
他方、トランク追突事件には、見方がいろいろあります。トランク追突事件は、深夜にランプを点けずに停車させていたという事案ですから、原審などは、どうもこのような具体的事情のもとでの追突は経験則上通常予測しうるものだと理解しているようです。ただ、追突事故が経験則上通常予測しうるものだと言ってしまうと、およそ交通事故一般が通常起こりうるということにもなりかねないので、このあたりは最高裁は言及していません。学説の中には、トランク追突事件を「予測可能性の程度が低い」事案だと評価するものもあり(井田・講義総論130頁。死因の同一性があるとするのでしょう)、トランク追突事件判例の射程を考える上で考慮してもよいでしょう。
本問は、砂末吸引事件とトランク追突事件をつなげて作成したものですが、因果関係を認めた判例と因果関係を認めた判例を「はしご」すれば単純に因果関係が認められるというわけではありません。仮に遺棄行為に出ることの経験的通常性が認められるとしても、トランク追突事件について通常予測しうるものかどうかの評価の仕方次第では、本問における結論とその後の論理展開が変わってきます。本問では、トランク追突事件とは異なる「昼間」「赤信号で停止」「停車直後の追突」「泥酔による追突」などの事情がありますから、それらを取り上げて評価すべきかどうかも考える必要があります。
◆高速道路侵入事件ふたたび
本問の素材判例のひとつ、高速道路侵入事件について、その射程を考えてみたいと思います。因果関係の判例の射程は、常識や基本の延長で考えることが大切です。
そこで、教室事例から考えてみましょう。思考実験です。
当該行為に含まれる直接的な危険性が結果に現実化した場合には、因果関係は肯定できます。たとえば、被害者に向かってナイフを突き刺す行為には、被害者を出血死させる具体的危険性などが含まれていますから、被害者が出血多量で死亡すれば因果関係が認められます。当たり前ですね。
では、こういうケースはどうでしょうか。
さっきと同様に、被害者にナイフを突き刺そうとしたところ、被害者がそれを避けて背後にあった崖から転落して死亡してしまったような場合です。
先ほどみましたように、ナイフを突き刺す行為の具体的危険の内容は、出血死等でした。では、このケースで危険の現実化の関係が認められないかというと、そんなわけがありません。
たしかに、抽象的に考えれば、ナイフを突き刺す行為に被害者が「転落死」したり「溺死」したりする危険性が含まれるとは言えません。「ナイフで突き刺したら転落死した」という論理は意味不明です。
この論理が意味不明にならないためには、「被害者の背後3メートルに崖があった」「危険なナイフを近づけることで被害者は意思を抑圧され、後退するしかなくなっていた」といった具体的事情が必要です。そして、このような具体的事情のもとでのみ含まれる行為の危険性について、これが結果に実現することを「誘発」と呼んでいるわけです。
そうすると、結局、具体的事情をもとに判断するしかありませんから、「誘発」という言葉だけ覚えていてもまったく無意味です。注目すべきは「誘発」というワードではなく、具体的事情のほうではないでしょうか。
たとえば、上のケースで「背後3メートル」となっていた事情を「背後20メートル」に引き伸ばしてみたら、途端に因果関係は怪しくなってきます。
このケースでは、ナイフを近づけても被害者が必ず崖から落ちるとは限りません。
もっとも、実行行為の具体的危険性は、可能性や確率を前提とした概念ですから、当該行為によって被害者が崖から落ちる一定程度の可能性があれば、なお因果関係が認められます。この可能性の判断は、「事前確率」によって求められますから、行為時の予測可能性がポイントになります(この範囲を明確にしようと企図するのが、いわゆる判断基底論です。このあたりは、結果発生の確率を考慮しない結果帰属の相当性判断の段階とは異なるので注意してください)。
20メートル程度ならば、障害物等がなければ、やはり転落死の危険は当該行為に含まれていたと考えてよいでしょう。
そこで、この距離をもっと長く設定してみます。800メートルくらいまで広げてみましょうか。
ここまで来ると、ナイフを突き刺す行為に転落死等の危険性が含まれているとはちょっと言いにくいんじゃないですかね。被害者がどう逃げても、800メートル先の崖から普通は落ちることはないでしょう。
ところが、800メートル先の崖であっても被害者が転落する可能性がある状況というのが考えられます。
たとえば、ほかに脇道のようなものがなく、逃げ道が崖に向かう一本の道だけで、そういう具体的事情の下でナイフを突き刺そうとするような場合です。普通は、被害者としてはナイフなんかで突き刺されたくないので逃げるわけですが、逃げるルートが崖に至る道しかなければ、そこを逃げるしかないですから、800メートル先であろうと、崖から落ちることも十分にありえます。
それでは、さらに状況を変えてみましょうか。
仮に上のケースが「崖」ではなく「高速道路」だった場合はどうでしょう。ついでに実行行為のほうも「ナイフを突き刺す行為」ではなく「室内の長時間の激しい暴行」に変えてみます。この場合は、当該行為と轢死の結果との間に因果関係を肯定できるでしょうか?
…というのが、実は判例の高速道路侵入事件でした。
本問では、さらに、事実関係を因果関係を否定する方向にいじってあります。つまり、暴行時間を半分にした上で暴行後に時間を経過させてみたりとか、逃走距離を2倍にしてみたりとか、逃げるルートを増やしたり、昼間の繁華街という設定を入れてみたりとかしています。
そうすると、ちょっと本問で因果関係を肯定するのは厳しいんじゃないですかね…
ともかく、具体的な事情を考慮することが大切です。因果関係の判例はすべて事例判断ですから、どうせなら判例の事実関係を覚えてください。
以上で解説を終わります。
それではまた~
▼問題と参考答案