緋色の7年間

制約を原動力に。法律事務所の弁護士と大手企業の法務担当者が、時に制約と闘い、時に制約を迂回していきます。

なんとなく民事訴訟法書籍紹介

ここでいったん書籍紹介です。

刑法のブログですが、今回は「民事訴訟」の書籍の紹介です。書籍の紹介というより、学習方法のひとつの紹介というかんじかもしれません。そういう方法もあるんだー程度のものですから、軽く流してください。

個人的には、民事訴訟法のわけわからなさは各法学領域の中でも飛びぬけていると思うわけですが、おそらくそれは、条文が粗雑だからではないかと思います。そもそも、民事訴訟法の規定にない「弁論主義」って何だろうと思うのは自然な感覚で、人事訴訟法19条・20条の反対解釈からこれを導くのは明らかに不自然な論理だといえます。また、民事訴訟法学は、その歴史的経緯から、職権主義的記述を当事者主義的な「手続保障と自己責任」に読み替える(タテからヨコに読み替える)、という謎の操作手順を踏まないと内容の理解が困難になっています。要するに、民事訴訟法学説は、粗雑で職権主義的色彩の強い条文から離れて、アカデミックな議論を独自に展開しているわけなのです(たぶん)。

しかしながら、同じくドグマティークな刑法と違って、どこまでいっても所詮は手続のはずなので、実際にやってみるのが最も効果的な学習方法です。学説は無視します。ただ、実際に学生が手続を実践できるかというと、大学・大学院で「模擬裁判」などという形で授業科目になっていない限り、たぶんできません。自分一人で自学自習することはなかなか困難です。それは、①要件事実論が使いこなせないから、②法律相談や弁論準備手続などの口頭弁論期日以外の手続フローを知らないから、③事件記録を読んだことがないから、などが理由です。

とりあえず、要件事実論は早急に学んでください。個人的には、民法学習段階から同時並行して勉強するのがよいと思います(ついでに民事執行法民事保全法にも触れられるといいです)。で、その要件事実論を前提に、一度、事件記録(とりあえず司法研修所が出してるグレーの第一審解説のあれ)を読みます。この事件記録と民事訴訟法を突き合わせながら学習します。要件事実論を押さえていれば民事訴訟法の半分は押さえたも同然なので、事件記録を読めば民事訴訟法の議論がどこで効いてくるのかということが「だいたい」わかります。たとえば、弁論主義の適用場面が、事件記録上ではっきりとわかります。あとは、以下の『ライブ争点整理』を読み、手続フローを感覚的に把握します。

ライブ争点整理

ライブ争点整理

 

同書はケースを4つ収録しており、これで実務の基本的な流れがつかめるかと思います。細かいことは実務に出てから押さえればよいので、基本的に「感覚」をつかむだけです。それで充分だと思います。ちなみに、同書中の、原告、被告、裁判官のそれぞれの現実のやり取りと、その時々の心の中の声がなかなか面白いです。特に会話中に随時挿入される心の中の「つぶやき」がほええってかんじです。こんなこと思われてるんだーみたいな。

以上をやった上で、ひたすら『事例演習民事訴訟』を解きます。同書は事例から離れた余計な記述が多いとされているらしいですが、実務上、当然に考えるべきことに触れているだけなので、むしろ民事訴訟法のミニマムに近いと思います。「余計な記述」だと思うのだとすれば、それはおそらく実務上の処理あるいは現実の事実関係が流動的であることを知らないからでしょう。民事訴訟法が使われる場面は、あくまでもリアルタイムに進行する手続の中なのであって、手続でミスをしてからでは手遅れということを覚えておいてください。最初から事実関係が確定している事件は原理的にゼロです。いるんですよ、弁護士でも手続上とるべき措置を間違える方が。自分もいつか同じようなミスをするのではと、正直笑えないです。それくらい民事訴訟法の問題はリアルな意味でシビアなのです。

なお、演習書としては、ロープラや基礎演習もありますが、解説がアカデミックなので、個人的には逆に難しいような気がします。むしろ、事例演習に出てきた内容で理解を深めたい項目を参照するという使い方がいいんじゃないかと勝手に思っています。

事例演習民事訴訟法 第3版 (法学教室ライブラリィ)

事例演習民事訴訟法 第3版 (法学教室ライブラリィ)

 

ともかく、まずは要件事実論を理解することが民事訴訟法を学ぶ上でおそらく必須の前提ですから、要件事実論をしっかり押さえないと民事訴訟法は意味不明なままか、あるいは学説の森につっこむことになります。上の事例演習も、たぶん解けません。30講とかゼミナール要件事実2とかを先にやったほうが理解が進むでしょう。

 

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