◆「採点実感等に関する意見」について
お久しぶりです~。あけましておめでとうございます~
今年もやってきました、司法試験のお話です。
現行の司法試験制度では「出題趣旨」とは別に「平成〇〇年司法試験の採点実感等に関する意見(××系科目第△問)」(以下、「採点実感」という。)なるものが公表されています。平成28年1月13日現在で、平成20年から27年までの計8問分の採点実感が公表されていまして、受験生としてはこれを読んで試験対策をしましょうという話になるわけです(なお、採点実感の本来の想定読者は指導側である法科大学院関係者なのですが)。ちなみに、平成27年の採点実感から、第3項「採点実感等」((5)「答案の水準」を除く。)の文章量が約4.5倍(平成26年比)になっており、もはや「問題解説」や「採点講評」に近いものになりました。試験としての透明性がかなり向上していますので、これを利用しない手はありません。採点実感は「絶対に」読みましょう。
(上図は、平成26年と平成27年のそれぞれの「⑴」の文章量を比較したもの。上図を目視する限りでは、「⑴」は、だいたい2倍くらいに増えていることがわかる。)
ただ、問題を解き終わった直後ならばともかく、受験生があとから採点実感を通読するのは、かなーりめんどうなので、このブログでは、(刑法に限ってですが)過去のすべての採点実感を体系的に整理して、ポイントをまとめてみたいと思います。
以前にも同様の記事を書きましたが、過去の記事を1年ごとに編集するのもどうかと思うので、新しく記事を追加していく方式にしているのは前年の通りです。その際、過去の記事の日本語的におかしいところやわかりにくいと思われた内容などを修正しました(まだ間違いがあるかもしれません。なお、文章の下手さは仕様です)。実質的には過去の記事の改訂なので、内容的にものすごく重複がありますが、あらかじめご了承ください。
※本ブログでは、「採点実感等に関する意見」を引用・参照するにあたって略記をします。たとえば、平成25年の採点実感の20頁であれば、「H25・20頁」と表記することにします。なお、平成27年から科目ごとに採点実感が分冊され、また、ページ下部にページ数が書かれないようになりました。ゆえに、平成27年については、「H27」とだけ記載することにします。
◆総評のようなもの
「採点に当たっては〔…〕罪責に関する結論部分だけではなく,その結論に至る思考過程の論述を重視するものと」するらしいです(H20・16頁、H21・18頁、H22・20頁、H24・23頁)。しかし、近年の採点実感では、このようなプロセス重視をあまり強調せず、「①刑法総論・各論の基本的な知識と問題点についての理解の有無・程度,②事実関係を的確に分析・評価し,具体的事実に法規範を適用する能力,③結論の具体的妥当性,④その結論に至るまでの法的思考過程の論理性を総合的に評価することを基本方針として採点に当たった」〔丸数字引用者〕(H25・25頁、H26・33頁、H27)としています。
箇条書きにすると、
- 基本的な知識と諸論点についての理解の有無・程度(知識)
- 事実関係を的確に分析・評価し、具体的事実に法規範を適用する能力(事案分析)
- 結論の具体的妥当性(結論)
- その結論に至るまでの法的思考過程の論理性(論理)
ということになります。
簡単に言えば、①知識、②事案分析、③結論、④論理の4つが司法試験的に重要だという当たり前のことしか言っていません。このうち、間違えやすい点は、②の事案分析だとされています(H20・16頁)。
◆事案分析で陥りやすいミス
上述のように、試験委員から問題点として最も指摘されているのは「事案分析」の能力の欠如です。ここで言っている「事案分析能力」とは、「事実関係を的確に分析・評価し、具体的事実に法規範を適用する能力」(H25・25頁)のことです。それはもう、おびただしい数の指摘の嵐です。
とりあえず、このタイプのダメ答案とは一体どのようなものかを列挙してみましょうか。まとめると、以下のようなかんじです(H20・16頁、H21・18-19頁、H22・20頁参照)。
- 単に問題文に記載された事実を羅列・転写しただけ
- 事実の持つ意味やその評価に触れていないか、またはそれらが不適切
- 自己の見解に沿うように事実の評価をねじ曲げる
- 問題文において主要事実が確定しているにもかかわらず間接事実の積み重ねによる事実認定を行うという誤り
- 法律論の論述のみに終始
- 結論を導くのに必ずしも必要ではない典型的論点に関する論述を展開
- 問題となり得る刑法上の罪をできるだけ多く列挙するだけ
◆法体系と判例の重要性
従来も指摘されていましたが、平成27年の採点実感の言い回しからすると、「判例の規範」、「判例の考慮要素」、「判例の体系的位置付け」、「判例の射程」に点が振られていることが読み取れます。
「刑法の学習においては,総論の理論体系,例えば,実行行為,結果,因果関係,故意等の体系上の位置付けや相互の関係を十分に理解した上,これらを意識しつつ,検討の順序にも十分注意して論理的に論述することが必要である。また,繰り返し指摘しているところであるが,判例学習の際には,単に結論のみを覚えるのではなく,当該判例の具体的事案の内容や結論に至る理論構成等を意識することが必要であり,当該判例が挙げた規範や考慮要素が刑法の体系上どこに位置付けられ,他のどのような事案や場面に当てはまるのかなどについてイメージを持つことが必要であると思われる。」(H27)
なお、採点実感では、「判例の理由付け」については明示的に言及されていませんが、全体を通して理解する限りでは「ケース・バイ・ケース」ということみたいです。
次回は、総論編。
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