◆「表」をつくる目的
こんにちは~
本日のテーマは「表」です。たまに教科書・基本書に表が掲載されていたりしますが、実は、その表には大きく分けて2種類あります。
ひとつは「検索のため」に使われる場合の表です。表を辞書的に活用することが想定されている場面ですね。書籍の表のページを開いて必要な情報を検索できればいいわけです。この表を覚えるなどというのはナンセンスであり、そんなことをやろうとしているのであれば早急にやめたほうがいいでしょう。覚えることに価値はありません。当該書籍の値段以下です。
もうひとつは「暗記のため」に使われる場合の表です。同じような表であったとしても「検索のため」とは目的が全然違います。司法試験の予備校本に載ってる表は、本来このためにあるはずなのですが、情報を書き込みすぎて正直言って全然使えません。検索目的と暗記目的との区別を意識していないからそうなるのです。暗記のための表は、検索のための表とは別個の論理に基づいて作成される必要があります。
暗記のために表を用いるのは、文字で覚えるよりも遥かに効率が良いからです。この業界ではしばしば「法学は言葉の学問だ」とおっしゃられる方がいますが、その中には、なぜかそこから「だから、法学書は文章で書くべきであり、図や表は使うべきではないのだ」という謎の帰結を導く旧世界の遺物みたいな人がいます。なるほど「法学は言葉の学問だ」は理解できますが、しかしながら、そこから直ちに「だから、法学書は文章で書くべきであり、図や表は使うべきではないのだ」と帰結することは理解不能です。文字というのはひとつのイメージ(構造言語学によれば音響イメージと概念イメージとの恣意的な結合)であり、ゆえに文章(文字列)というのはイメージの集合であるわけです(規範論中段参照)。したがって、文章も図も表も等しくイメージの次元にあるわけで、図を使おうが表を使おうが「言葉の学問」という点から何ら離れるものではありません。そして、イメージの数が少ないほうが覚えやすいに決まっているわけで、だからこそ文章よりもイメージの数が劇的に少ない図や表を使うことに意味があるのです。
というわけで、本記事では、後者の目的の「表」の自作の仕方を扱います。なお、探索木的な手法のほうが有効な場合もありますから、そのあたりは臨機応変に使い分けて下さい。
◆作例
今回は例として、条文構造の把握がものすごくめんどうな放火罪と賄賂罪について作表(という日本語があるのかは知りませんが)してみましょう。
ポイントは2つあります。
ひとつは、条文の適用対象がどのような種類の概念で切り分けられているのかを特定することです。「主体」なのか「客体」なのか「行為」なのか、ということです。これらを表の見出し語にして表を作ります。たとえば、放火罪の場合には「客体」に着目し、賄賂罪の場合には「主体」と「行為」の2つに着目して表をつくるわけです。
条文の適用対象となる概念の種類に着目するのは、別に刑法に限られる話ではなく、法律を読む際の一般的な視点であり、かつ有効な視点でもあります。たとえば、個人情報保護法は、個人情報という「客体」で適用対象を切り分けているのではなく、個人情報取扱事業者という「主体」で切り分けています。これは、個人情報保護法は個人情報を保護するための法律なのではなく、個人情報取扱事業者が個人情報を円滑に利用することを促進する法律だからです。ほかの例では、金融商品取引法は、有価証券とデリバティブ取引(総称して「投資商品/金融商品」)という「客体」ないし「行為」で適用対象を切り分けています(金商法解説参照)。さらに、たまに錯綜した法律があって、商法典は商人概念という「主体」と商行為概念という「行為」とが複雑に絡み合って適用対象を画しています。「株式会社は商行為をするから商人であり、ゆえに株式会社の行為は商人の行為として商行為であると推定される」という謎の論理が出てきます。何を言ってるかわからねぇと思うが(以下略
ポイントの2つ目は、作った表の要素(セルの中身)を覚えるのではなく、行と列の見出し語を覚えることです。たとえば、放火罪であれば、タテの目的物の種類とヨコの所有権の帰属を覚えます。放火罪の場合、3×2=6のマトリクスになるので、そのまま覚えると6つの要素を文字でバラバラに覚えることになってしまうのですが、見出し語のほうを覚えておけば「3つのセット」と「2つのセット」を覚えることで済みます。あとは中身に「カラー」を付けて情報量を減らします。何度も言いますが、文章は情報量が多いので、なるべく文章で覚えたくないのです(そう言うわりにこの記事の文章が長いのは完全なる失態)。
で、作例1(放火罪)。論文知識を前提にすれば、これで放火罪の択一プロパーのほぼ全域をカバーできます。
続いて、作例2(賄賂罪)。放火罪と違ってだいぶ複雑であり、表も2段階構成になっています。賄賂罪は、大きく分けて収賄罪(もらう方)と贈賄罪(あげる方)に分かれます。下表は、収賄罪について、さらに展開したものとなります。
以上、作例でした。
作表は、個人的に好みの分け方で構いませんし、タテとヨコを取り換えてもなんでも結構です。要するに、自分が覚えられればいいのです。
それでは~
▼関連記事