こんにちは〜
本日のテーマは、法学系以外の書籍レビュー第1弾です(なお、第2弾以降は未定)。今回は5冊の書籍をご紹介します。この夏休みの読書課題とかにどうぞ。
1 『経営の針路』〜これまでの30年とこれからの30年のお話
- 作者: 平野正雄
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2017/07/06
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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まずはこちら。1990年前後(本ブログの想定読者層の方々が生まれるちょっと前くらい)から現在に至るまでを「ポスト冷戦期」と呼び、①グローバル、②キャピタル、③デジタルの3つの観点から日本の企業経営を分析し、戦略事業投資会社をモデルとして提示。まぁなんとなく常識だよね、というものをデータに基づいて整理し、淡々と論理的に展開していく。専門知識不要。裏を返せば、仮に本書に登場する用語がわからないとすれば、特に企業法務志望者として非常にまずい気がしないではない。本書の7割くらいは、いわば「日本企業衰退過程」の冷徹な分析なので、書籍としての劇的な展開はなく、その意味では面白くないかもしれない。が、逆に目の前にデータを突きつけられ、論理的に迫ってくるという点で、焦燥感と危機感を煽られる(いやほんといまだに法科大学院云々言ってる弁護士はのん気だよね)。企業のあり方はそのまま法務需要に反映されますが、本書で述べられていることと現在の法務需要の所在について私の実感と一致する。M&Aとか。次の30年間についても論じられているため、将来的な法務需要の検討材料にもなると思われる。本書を読んでみて、将来、自分がどの段階に関与したいと思うのかじっくり考えてみてもいいのでは。
2 『不動産の基本を学ぶ』〜民法の基本問題を別の角度から
というわけで、2冊目のご紹介です。
はじめに言っておくと、2時間でわからない。無理でしょ。本書は特に不動産売買についての不動産業者の実務を淡々とやや断片的に解説するビジネス書です。ご存知のように、不動産媒介契約は民事仲立契約という準委任契約の一種ですが、そういう法律面は自分で学べるので特に障害はないわけですけれども、実務(特に弁護士ではなく当事者の実務)は基本的に自学自習は困難です。えーと、なぜか教室事例では「甲土地」が媒介なしで転々流通して登記とかでトラブルになったりするわけですけど、現実の事例だと媒介がないことは少ないんで。そういう実務面を理解しないと「こいつら何をしたいのか理解不能なんだけど」状態になります。そもそも、なんか事例問題って不動産業者は悪い奴としてしか出てこないよね、かわいそう。本書を読めば、実務的な感覚がある程度わかるようになるというか「ないよりマシ」くらいにはなるので、教養として読んでおいてもいいかなぁと。偏見なくなるし。私は最初に民法を学んだ時は「3000万円の土地の売買とか現実感のない事例だなぁ」などと無知な(今もか)ことを思っておりましたが、市場規模的には不動産業は金融業に次ぐので法務需要も昔からとても大きいです(※不動産業界の規模は56.3兆円)。これはもちろん単価が高いからです。そんなわけで、一冊くらい読んでもいいんじゃないかなって。
3 『現代の金融入門』と『高校生のための経済学入門』と『債権回収の進め方』〜民法の立体的な理解のため
あー、えーと、マネーまわりについて3冊まとめてご紹介です。
とりあえず、金融関係がわからないと死ぬので。もちろん金融業の市場規模が大きく、それがそのまま法務需要に反映されるからです。3冊ともメインは債権(民法学で言えば債権総論・担保物権)に関わるお話です。政治思想にかかわらず金融に対する理解はあったほうがいいです、というかないと死にます。いやほんと法学生って「売買代金債権」と「売掛代金債権」の法的・経済的な違いすらよくわかってない人、けっこういますよね。法概念の使い方と言いますか。私がそうでした。学び始めの当時はこんなのはじめに誰か教えてくれよ、と思っていました。もう少し頑張ってもらえませんか民法の先生。民法の事例問題にしても、けっこうな数が債権回収の観点からのものですよね。たまに「これ手遅れなやつや」みたいな事例を検討させるものもありますよね(司法試験でそういうの出たような)。問題を作っている人が実務をよくわかっていないからです。民法の先生、頑張って。ほんとに。
上2冊は経済学の新書です。一般教養レベルなので軽め。これくらいは知っておきたいというボトムライン。もちろん金融を専門にするなら全然足らない。というか、金融領域は見かけの論理明快さとは違って泥沼ですね。そもそも、金融領域って法律構成の評価が不透明なので、経済学的には同じなのに適用法令が異なるとか普通にあります。最近ではスタートアップ企業とかが金融庁に対してビジネスモデルが法に触れないか聞いたりしているようですが、こういう手合いは聞かないのが鉄則です。NALとか送るのやめてけろ。えーと、そんなわけで、そもそも最初から全部理解できない領域なので、どこかで妥協が必要なのでご注意ください。
3冊目のやつはインハウスの法務視点であり、比較的法律書っぽさがあります。3冊目については具体的な事例と向き合うときの基本フレームとして使えます。転用物訴権とかいくつか足す必要がありますが。期限の利益喪失約款から民事執行までタテのラインをほぼ全てカバー。わかりやすくてとても助かります。民法の立体的な理解のために有益。
なお、新書3冊ではファイナンス関係とかまではカバーしきれないので注意。特にエクイティはカバーできません。
というわけで、書籍紹介おわり。ぜひ読んでね〜