緋色の7年間

制約を原動力に。法律事務所の弁護士と大手企業の法務担当者が、時に制約と闘い、時に制約を迂回していきます。

任天堂著作物ガイドラインの解説(もちろん非公式)

第1 原則論

平成30年11月29日付「ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」(以下「本件ガイドライン」といいます。)が公表されましたので、学術的観点から細かい点を検討しようという試みです。

まず、本件ガイドラインがなかったらどうなるのかという点を確認しておきましょう。

ゲームの映像等も著作物ですから、任天堂が著作者の権利(広義の著作権)を有しています(著作権法2条1項1号、15条1項、17条1項)。そこで、ゲームの映像等を用いた動画投稿行為は、複製権(同法21条)、公衆送信権(同法23条1項)の各規定(支分権該当行為)にあたることになります。もっとも、収益化行為自体(アフィリエイト契約等の法律行為ないし事実行為)は動画投稿行為とは別個独立の行為ですから、支分権該当行為にはあたりません。結論としては、当該動画投稿行為について、投稿者は、次の責任を負います。

  1. 民事責任として、差止請求や損害賠償請求を受ける。
  2. 刑事責任として、著作権侵害罪の罪責を負う。

この際に、民事責任の部分で利益分が損害額と推定されます(著作権法114条2項参照)。要するに、収益化行為自体は著作権侵害を構成することはないものの、結局、利益は正当な権利者に全部持っていかれるわけです。実態としては、填補賠償というよりも不正に得た利益の吐き出しです。

つまるところ、以下に説明する本件ガイドラインに沿わないと、上のような責任を負うということです。

第2 例外としての本件ガイドライン

1 総説

それでは、本件ガイドラインはどのような位置づけとなるでしょうか。

それは、著作物の利用許諾(ライセンス)という形で、著作権を制限する(法律効果を阻止する)という位置づけになります。要するに、結果的には、ライセンスの範囲内で自由に著作物を利用できるわけです。本件ガイドラインにおいて、任天堂は「当社が創造するゲームやキャラクター、世界観に対して、お客様が真摯に情熱をもって向かい合っていただけることに感謝し、その体験が広く共有されることを応援したい」旨を述べています。広い意味でのPRの目的から無償でライセンスを付与するということでしょう。

そこで、具体的な要件をまとめると、次のとおりです。

◇◇◇

①投稿(実況を含む)であること

②上記①が個人の名義によるものであること

③任天堂が著作権を有するゲームからキャプチャーした映像およびスクリーンショット

④上記③を利用した動画や静止画等であること

⑤A1 営利を目的としないこと

 A2 上記①が適切な動画や静止画の共有サイトで行われること

⑤B1 別途指定するシステムにより収益化することを目的とすること

 B2 収益が個人の計算において行われること

◇◇◇

以下、各要件を検討します。

2 各要件解説

⑴ 投稿(実況を含む)であること

ここにいう「投稿」とは、動画の投稿及びストリーミング配信をいいます(本件ガイドラインQA2)

⑵ 投稿が個人の名義によるものであること

本件ガイドラインでは単に「個人」としか述べていませんが、趣旨からすると、当然、直接的行為主体が自然人であることが求められるということではなく(それは当たり前です)、名義が自然人であること(屋号等を含む。)が要求されており、法人や社団(グループ)を名義とすることはできないものと思われます。本件ガイドラインでは、明示的に「法人等の団体」が除外されています(本件ガイドラインQA9)

⑶ 任天堂が著作権を有するゲームからキャプチャーした映像およびスクリーンショット

本件ガイドラインで「任天堂のゲーム著作物」と定義されており、利用する対象が「ゲーム」であることが要求されます(本件ガイドラインQA6)。PVや公式サイト、公開イベントでの映像などはあたらないと考えられます(本件ガイドラインQA7参照)。なお、他者がキャプチャーした映像などは二次的著作物であるため、当該他者から別途で許諾を得る必要があります。

⑷ 任天堂のゲーム著作物を利用した動画や静止画等であること

ここにいう「利用」とは、投稿者独自の創作性やコメントを付加することをいいます(本件ガイドラインQA1)。典型的には、ゲーム実況動画やゲーム紹介動画が想定されているようです(本件ガイドラインQA1)。創作性というのは、著作権法と同様に考えるならば、表現の個性だとか選択の幅だとかいわれています。

⑸ Aパターン

いわゆる非営利目的と共有サイトの適切性です。

同サイトで収益を上げる目的がなくとも、投稿者の宣伝(売名的行為)を目的とする場合には、非営利目的にはあたりません。

共有サイトは「動画や静止画の」共有サイトでなければならなず、また、サイトとしての適切性も要求されることになります。何をもって適切とするのかは不明瞭ですが、「別途指定するシステム」を設けている共有サイトであれば問題はないと考えられます。任天堂は、例示的に YouTube や Twitter、ニコニコ動画をあげています(本件ガイドラインQA3)

⑹ Bパターン

任天堂は、本件ガイドラインをもって、営利目的での動画投稿を限定的に許容したものとみられます。限定の中身としては、営利目的の中でも「別途指定するシステムにより収益化」するという目的であることが求められると考えられます。共有サイトの適切性は、この目的要件に解消されます。ガイドラインの趣旨からすると、実質的な利益の帰属は個人でなければならないはずですから、投稿者の名義にかかわらず利益の帰属先も個人でなければならないことになるでしょう。

本件ガイドライン自体は目的で切り分けて規定されておらず、時点も投稿時に揃えているようには読みにくいのですが、ただし書を合理的に解釈すると、上のように営利目的を限定的に認めたと読むべきでしょう。仮に要件として実際の収益化まで要求されるとするならば、営利目的をもって投稿し、そこから収益化するまでの間が権利侵害状態となってしまいますが、そのような事態は任天堂が合理的に意図するものとは考えられません。逆に、営利目的で投稿しながら収益化しないのであれば、そもそも非営利目的の投稿だったと実際上扱われることになるでしょう。

なお、「別途指定するシステムにより収益化」するという目的以外の営利目的での投稿はできないとも読めますが、そのような目的は事実上考えにくいです。宣伝目的の投稿にせよ、収益があがる場合にも宣伝効果はあるわけですから、よほど悪質な態様でない限り問題になるとは思われません。

以上、久しぶりの投稿でした。

 

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