緋色の7年間

制約を原動力に。法律事務所の弁護士と大手企業の法務担当者が、時に制約と闘い、時に制約を迂回していきます。

法律事務所に入れられるはずの Slack や G Suite といったITツールが入らない理由

事務所のボスが後進的で新しいものについていけないから。以上。おわり。

…という身も蓋もない結論になります。

わたしが聞いている限りでは、Slack、G Suite あたりを入れているところはけっこうあるみたいです(Skype、Zoom などのテレビ会議系はいったんおいておきます。Dropbox も)。Microsoft 365 や Salesforce を入れているところもあるようです。というか、一般民事で Salesforce はなかなか考えるものがありますね…。タスク管理系(Backlog とか、Jira とか、Trello とか、Asana とか)はあんまり聞きません。アプリケーションを連携させているケースもあまり聞きません。だいたいそんなかんじ。なお、弁護士情報セキュリティガイドラインには、一応、留意が必要です。

で、このご時世に経営層が上のようなツールの検討をしていないというのは想像以上に根が深く厄介な問題です。以下、ざっくりと要因に関する見立てを述べます。

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1 事務作業は事務員が行っていること

「専門性」や「時間単価」の名の下に、弁護士には単純事務作業を行わない方々が非常に多いです。これは事務作業の負担軽減やオペレーション改善を事務所の経営課題として認識しにくいことを意味します。事務員に任せておけば何の不都合もないものを、いったいどうして変えようとするでしょうか? 先端的な無人精算機よりも旧来の有人レジを使おうとする高齢者の方々と心理的には同じであると考えることができます。この種の問題は、事務局との対等な連携がとれていないか、他人の話を聞けないか、基礎的な教養がないか、いずれかに起因します。そもそも IT ツールの活用をマネジメントの問題だと理解しておらず、「事務所の環境整備は弁護士がやることじゃないでしょ?」レベルの感覚しか持っておらず、重要性を認識していないケースもあります。

2 失敗や試行錯誤を嫌うこと

弁護士は極端に正確性を求めがちで、失敗することを嫌がります。また、調査に時間をかけることに価値があると思っていても、試行錯誤に時間をかけることに価値があるとは思っていない傾向があります。年齢が上がれば上がるほど、保身的であればあるほど、これらの傾向は強くなります。プログラミングをやろうとしたら、まずは書籍を読み、あるいはプログラミングスクールに通おうとする人たちです。ITツールは「とりあえず」手を動かさないと理解できませんよ?

3 「クラウドサービス」の観念がないこと

おそらく "DX" はもちろん、"SaaS" という用語が通じないです。頭の中は依然としてパッケージソフトウェアの世界観であり、実用性とセキュリティの比較衡量という発想も持っていません。文章を書くと言えば Word、ファイルのやりとりはファイルアイコンをドラッグ&ドロップで完結させたい、やりとりの情報は電子メールボックスに集約、過去の案件のファイルはメンバーのPCに散逸…などといった状態だったりします。ここから転換してもらうにはかなりハードルが高いです。導入したいITツールと比較して従来のワークフローのどこかひとつでも局所的に効率がよく見えれば、それを理由に導入を拒否したりします。ITツールは実際に使わないとその価値は理解できませんが、そもそも頑なに使わないということもありえます。

4 以下よろ

  1. ITツールの導入による業務改善は事務所の利益に繋がります。
  2. 悩んでいないで自分自身で試行錯誤して失敗しながら使っていきましょう。
  3. これからは電子メールクライアントが副次的なツールになります。
  4. これからはファイルではなく URL のやりとりが基本になります。
  5. ローカル環境の Word という特殊ツールに固執するのはやめましょう。
  6. クラウドサービス同士を連携させましょう。

法律事務所の場合にはITツール導入の決裁権者はボス弁・パートナークラスであり、いかにアソシエイト弁護士や事務員を動機付けても導入に有効とはいえません。

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