緋色の7年間

制約を原動力に。法律事務所の弁護士と大手企業の法務担当者が、時に制約と闘い、時に制約を迂回していきます。

理解をしてもらうということの難しさについて

今回はわたしの学生時代以降の真剣な悩み(のひとつ)を書いてみます。

ほかにも同じような局面に遭遇している方はいるかと存じますので、みなさまどうされているのかな、と。ネットなら誰か一人くらい同じような悩みを抱えていてもおかしくないかなと思うので、以下はわかる人だけわかっていただければいいかなと思います。おそらく、わたしの個人的な悩みを超えて、組織に対してITツールを導入する際などにも似たような現象が生じるかもしれませんので、ご参考までに。

悩みというのは、一言でいえば、自分が理解していることをどこまでどのように説明するべきかという点です。

口頭でも文章(本ブログの記事も含みますが)でも、わたしの場合、「AであればBです。」と言うとき、その背後には括弧書きというか、かなりの含みがあります。イメージ的には「AであればBです(がCであれば非AなのでBではなく、D、E、Fが条件として揃ってGの視点からAがあればBといえるが、これを説明するためには簡潔にでもH、I、Jの前提の説明が必要で、しかし言ったところで理解が追いつかなさそうだし誰の幸せにもならないから言わなくていいや)。」というかんじです。

わたしが括弧の中を説明すればわたしの認識は表明できるかもしれませんが長すぎれば相手の理解が追いつかずに拒絶反応を惹き起こし、わたしが括弧の中を説明しなければわたしの認識は伝わらず相手の頭の中には単純化された図式だけが残って誤解を生むおそれがあるという、言うも地獄、言わぬも地獄の状態に陥ります。わたしの場合には(説明義務が課されていない限りは)後者の手段、つまり相手の理解力や受容力以上のことは説明しないという方針ということです。これは特に口頭のケースで、文章の場合は括弧書きは示唆にとどめています。

しかし、この方針の実際的な課題として、相手は自分がかんたんに理解できる水準の説明に対しては尊大な態度をとってきます。このような場合には、知識のマウンティング合戦に意味はないので、そのまま相手を乗せておけば足りますが(苛立って論破すれば逆効果になります)、一緒に仕事をする人物だと実害が出てきます。いわゆるコミュニケーション・ギャップですね。このような場合には正面から切り崩さずに誘導で対処するか、段階的に説明を展開していくことになります。もっとも、いずれの手法も、もともとの相手の理解水準が低いと時間がかかりすぎ、仕事としてはやってられません。とりわけ、自分よりも相手のほうが社会的な意味で立場が上だったりすると大変です。

わたしのケースだとわかりにくいので、ITツールの導入を例に引けば、ITツールについてのITに疎い人(たとえば、当該部門の上司)に対する説明だと思ってください。相手が何が何だかわからない状態で詳しく説明しても拒絶反応が出てきて逆ギレされ、簡潔に説明すればわかったつもりにさせられるものの実際には全然ダメということになりますよね。順を追って段階的に説明している余裕があればよいですし、相手がそれを受け容れる体制であればよいのですが、たいていは虚栄心が先行してしまい、なかなか状況は改善されません。立場が上であるほど難しいです。

そこで、ここからわたしのような人間がとりうる選択肢は次のとおりです。

  1. 自分の力で押し切る(社会的な地位と権力を持つことを進める。)。
  2. 仲間が来て助けてくれる(理解してもらえる人から理解してもらう。)。
  3. 理解してもらうこと自体を諦める(現実は非情である。)。

しかし、わたしにとって権威主義で押し切るのはポジティヴではないです。1はありえない。属人的な権威が通じる範囲や背中で語れる範囲には限度があります。やってみせないと人は動かないと言いますが、それを全面的に認めると関係性として歪な構造になります。そもそも原因と結果が逆で1を阻害している原因そのものかもしれません。やってみること自体が封じられていればどうにもならないでしょう。というわけで、2を目指すわけです。腐った組織を改革したり、ITツールを導入したりするときには、まず大勢の中から少数の有力な理解候補者を見つけ出し、説得を試みます。この方法の欠点は、真に組織全体が腐っていたり、真に関係者全員にITリテラシーが欠如していたりするとまったく手が付けられないことです。その場合は3になります。現実は非情です。こうなってしまうと、最初に戻って思想信条の観点から切り捨てていた選択肢である1がとても魅力的に見えてきます。見えてきているんですよ。ええ。

あまり整理されていない悩みで大変恐縮ではございますが、みなさまはどのように解決していますか?

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