緋色の7年間

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刑法各論と構成要件要素

◆何が問題となっているのか

こんにちは~

今回は、刑法各論の観点からの構成要件要素の把握の仕方をテーマにします。

構成要件要素とは、簡単に言えば、条文に記載された犯罪の成立要件を構成する要素のことです。刑法総論では、行為結果因果関係故意過失などが構成要件要素として取り上げられていたと思います。これらは、刑法各論で共通する構成要件要素を抽象化したものだったということを、ここで確認しておきたいと思います。

しかしながら、多くの人は「構成要件要素」と聞いたときに、「行為、結果、因果関係、故意、過失」くらいを思い浮かべることまでしかしていません。これでは、刑法各論の理解が進まないのではないかと思われます。実のところ、構成要件要素概念と刑法各論の解釈を関連させて把握できている人は少ないのです。

構成要件要素と解釈を関連付けられないと、どのような問題があるのでしょうか?

それは、「解釈や論点を刑法体系に位置付けること」がスムーズにいかなくなるという問題です。刑法各論の理解がスムーズにいかなくなり、記憶が断片化してしまうのです。暗記という観点からすると、ものすごーく非効率的です。場合によっては、論述にも影響が出てきます。このあたりは、司法試験の採点実感でも指摘されているところです。たとえば、「答案を書く際には,常に,論じようとしている問題点が体系上どこに位置付けられるのかを意識しつつ,検討の順序にも十分に注意して論理的に論述することが必要である」とされています(H26・36頁)

もう少し具体的に考えてみましょう。

みなさんは、条文を読んで理解する際に「主体」や「客体」を構成要件要素として常に意識しているでしょうか? もしかして、答案などを書く際に、条文の文言をかぎ括弧(「」)で抜き出して、そのまま淡々と「あてはめ」てしまっているのではないですか?

条文の文言に着目すること自体は構わないというか、罪刑法定主義の建前上そうすべきなのですが、それによって「構成要件要素」という意識が薄れてしまうことがあります。刑法各論の領域において、多くの学生は、罪責を論じるにあたって条文ごとに形式的に細分化された文言を逐次検討するという方法をとりますが、この方法によれば、各条文の文言の「体系上の位置づけ」が抜け落ちます。なぜならば、「文言」を検討していても、それを「構成要件要素」としては検討していないからです。

このような逐語的な方法をとった場合、学部の期末試験問題などの刑法各論の単発論点を内容とするシンプルな問題は解けますが、司法試験のように総論的な観点を加えられて問題をひねられると手も足も出なくなります。その典型的なケースが、錯誤論などで主体や客体が構成要件該当事実となる場面です。総論において、主体や客体は構成要件要素としてあまり問題にはなりませんが、刑法各論との関係では構成要件要素として捉えることが極めて重要です。要するに、その人の主体と客体の捉え方を見れば、頭の中で刑法総論と刑法各論がリンクしているかどうかがわかるのです。

そこで、問題の核心は、なぜ刑法各論の領域で構成要件要素を用いた整理がなされないのかということにあると考えることができます。

【補足】「構成要件」という用語について そもそも「構成要件」という言葉は、ドイツ語の Tatbestand の訳語であり、本来は「行為類型」という意味です。ゆえに、「構成要件要素」という日本語は、「行為類型の要素」以上の意味はありません。ちなみに、Tat が「行為(結果等も含む。)」であり、Bestand が「型」というドイツ語なのですが、普通のドイツ人に聞くとドイツ語としては不自然のようです。

◆ではどうすればいいのか

刑法各論の領域は、構成要件要素概念を軸に整理し直す必要があります。当たり前のように聞こえるかもしれませんが、これまで意識的にそうしてきた人は多くないのではないかと思います。実際には、言うほど簡単なことではありません。では、なぜ構成要件要素概念を用いて整理することが難しいのでしょうか?

ここで注意を向けてほしいのが「実際の条文の文言の書き方」です。

まずは、刑法各則の条文を見てください。必ずしも「主体→客体→行為→結果→因果関係→故意→主観的要素」の順に書かれているわけではありません。しかも、たいていの場合は、行為・結果・因果関係がワンセットの表現になっています。

たとえば、刑法第199条では「人を殺した」となっていますが、この「殺した」というひとつの表現の中には、行為・結果・因果関係が含まれています。頭の中では当然にこれらを検討しますが、特に問題とならない場合にまで、逐一これら3つのあてはめを行わないのではないでしょうか。殺人罪の場合には、たいていは総論的な観点が問題となるので、あまり例がよくないかもしれないですが、窃盗罪における「窃取」であっても同様です。「窃取」という表現には、「他人の意思に反して財物の占有を移転させる行為→自己または第三者への占有移転の結果→因果関係」が含まれています。

ここがポイントです。せっかく一般的な構成要件要素を押さえているのに、刑法各論で構成要件要素を用いて整理することに障害があるのです。条文の文言の書き方と構成要件論とが乖離してしまっていて、そのままでは両者をうまくリンクできないということです。

そこで、この障害をどうやって取り除くかを考える必要があります。

ここでは、私が個人的に行っている整理方法を、解決策としてご提案させていただきたいと思います。その方法とは、次のようなカテゴライズによるものです。

  1. 主体
  2. 客体
  3. 行為の客観面
  4. 行為の主観面
  5. (着手・既遂時期その他)

論述式問題などでは、5番を除いて、基本的には1から順に検討します。整理するにあたって、条文の文言は並び替えます。たとえば、有印公文書偽造罪(刑法155条1項)の場合は、次のように(ノート等を使って)整理します。

  1. なし
  2. 「文書」「公務所若しくは公務員の作成すべき」
  3. 「偽造」「〔偽造した〕公務所若しくは公務員の印章若しくは署名を使用して」
  4. 「行使の目的」
  5. なし

形容詞・副詞(修飾語)を後ろに置くのがコツです。文法的・論理的にも、この方法がもっとも正確です。概念の構造がそうなっているのです。形容詞・副詞は、名詞・動詞を限定する役割です。ここに注目して、検討する概念については広いほうから徐々に限定していけばよいのです。

5番は構成要件要素ではありませんが、最後に位置付けておけば、検討をスルーすることはなくなります。要するに、検討の「チェックリスト」をつくってしまうわけです。

そして、上のリストに定義論点を付け加えていきます。たとえば、「偽造」なら、その横(でもなんでもけっこうですが)に、「作成者と名義人の人格の同一性を偽ること」などと書いておきます。さらに、「作成者」と「名義人」の定義も付け加えておきます。これらの定義に加えて、「代理名義の冒用」などと論点名を書き加えます。この際、この論点では何が問題となっているのかについて、元の要件を見ながら考えます。なお、論証については別途で押さえます(「『論証パターン』の作り方」参照)

こんなかんじで、刑法各論を整理していけばよいのではないでしょうか。

それではまた~

 

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