緋色の7年間

制約を原動力に。法律事務所の弁護士と大手企業の法務担当者が、時に制約と闘い、時に制約を迂回していきます。

アメリカにおける正当防衛の考え方(前編)

こんにちは~

今回は、わりと時事的なテーマを扱います。テーマは「アメリカにおける正当防衛の考え方」です。時事的なテーマですが、政治的な問題を避けるため、ここではあえて時事的要素を出さずに、刑法理論として考えてみたいと思います。

◆諸注意

先に注意を促しておきます。前言を撤回するような、あるいは、前言と矛盾するような言い方で恐縮ですが、アメリカ法学においては、「理論」といった大陸法系制定法諸国に見られるような発想はほとんどありません。なぜならば、刑事法においても、Common Law 判例法)の国だからです。もともと大陸法的な意味での罪刑法定主義の発想もなかったので、「法益」概念はありませんし、「構成要件該当性」「違法性」「責任」という「体系」もありません。ひとくくりに「criminal law(刑事法)」と呼ばれるだけで刑法と刑事訴訟法はあまり分離されていませんし、一部では不法行為法が刑事法の役割を引き受けている場合もあります(懲罰的損害賠償制)。ですから、以下で述べることをそのまま日本法に類推すると危険ですので、理解する際には十分に気を付けてください。

◆Stand-your-ground law 正当防衛法?

米国において、多くの州(私が数えた限り30の州)が Stand-your-ground law (日本のメディアでは「正当防衛法」と訳されています)を規定しています。これらは独立した法律というわけではなく、州の法典にいわば「組み込まれた規定」となっています。たとえば、フロリダ州法の第46編(日本法のように「編」と訳しましたが、元の語は "Title" です)が犯罪規定となっており、その776章「武力の正当な行使」の012節(※2014年改正後)が、「人に関する防衛における武力の行使又はその行使による脅威を規定しています。

(1) 何者かによる違法な武力の差し迫った行使に対して自己又は他人を防衛するために必要であるとある者が合理的に認める場合において、その者は、人を死に至らしめる武力を除いて、別の者に対して武力を行使し又はその行使により脅威を与えることが正当化される。本項により武力を行使し又はその行使により脅威を与える者は、そのような武力を行使し又はその行使によって脅威を与える前に退避する義務を負わない。

(2) 自己若しくは他人に対する差し迫った死若しくは重大な身体の害を防ぐため又は Forcible felony の差し迫った侵害を防ぐために必要であるとある者が合理的に認める場合において、その者は、人を死に至らしめる武力を行使し又はその行使によって脅威を与えることが正当化される。本項により人を死に至らしめる武力を行使し又はその行使によって脅威を与える者は、人を死に至らしめる武力を行使し又はその行使によって脅威を与えるその者が犯罪活動に従事しておらず、かつ、そこにいるべき権利を有する場所にいる場合には、退避する義務を負わず、その場にとどまる権利を有する。

Chapter 776 Section 012 - 2014 Florida Statutes - The Florida Senate より翻訳。翻訳にあたり一部表現の修正あり)

第1項には人を死に至らせるほどではない武力の行使が、第2項には人を死に至らせるほどの武力の行使が、それぞれ正当防衛となるための要件を規定しています。

第2項における "Forcible felony" は、日本語にそれにあたる用語がありません。直訳すると「強制重罪」で、具体的には、反逆、謀殺、故殺、カージャック、強盗などの「個人に対する物理力若しくは暴力の行使又は脅威」のことですフロリダ州法776章08節 参照)

日本の刑法36条と比べて、フロリダ州法(アメリカにおける他の州法も基本的に同様ですが)の第2文が特徴的です。退避義務を負わないことを明言しているのです。日本における「急迫性(積極的加害意思)」や「防衛行為の相当性」の理解とかなり異なっていることがわかります。

次回は、よりつっこんだ話に入っていきたいと思います。

それではまた~

▼後編はこちら

 

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