緋色の7年間

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たのしい類型証拠開示&主張関連証拠開示

※2018年3月24日 一部追記

0 イントロ

今回は、公判前整理手続における「証拠開示」のお話です。

以下、一行問題形式(のようなかんじ)で解説します。

【問題】 公判前整理手続において、弁護人としては、検察官に対して、どのような証拠を、どのような法的根拠で、開示請求するべきか。

証拠開示制度は、当事者主義に由来する制度です。戦前の職権主義的運用を引きずってきた刑事裁判実務ということもあって(「民事裁判と刑事裁判の構造的な違い」参照)、長い間、証拠開示制度がないに等しい状態が続いていたのですが、裁判員制度の導入に伴って画期的な証拠開示制度ができました。また、今回の刑訴法改正(平28法54)では、この証拠開示制度が拡充されました(「新旧対照条文」参照)

そこで、現行法の下で弁護人が利用できる請求としては、次の3点です。

  1. 類型証拠開示請求
  2. 補充的押収手続記録書面開示請求(新設。ネーミング不明)
  3. 主張関連証拠開示請求

1 類型証拠開示(刑訴法316条の15第1項)

弁護人としては、刑訴法316条の15第1項に基づき、検察官に対して、「類型証拠開示請求」を行うことが考えられます。

まず、公判前整理手続に出てきている「検察官請求証拠(刑訴法316条の14第1項柱書参照)を確認し、類型証拠開示では当該検察官請求証拠の証明力を問題にするのだということを確認しておきます。当たり前ですが、「検察官請求証拠」の開示は、検察官の義務であって、類型証拠開示は検察官請求証拠の開示を求めるものではありません。類型証拠開示は、あくまでも検察官請求証拠の証明力を判断するために検察官請求証拠とは別個の証拠の開示を求めるものですから、制度を理解する際には、この点に注意してください。

次に、刑訴法316条の15第1項所定の3要件を検討します。その3要件とは、

  1. 類型該当性
  2. 証拠の重要性
  3. 開示の相当性

です。検討の方法ですが、刑事弁護のプロからは、「検察官請求証拠の一つずつについて、その証明力を判断するために、いかなる類型証拠の開示が必要かを検討し、請求する方法が適切である」とされており、各類型ごとの順次検討が不適切である旨が指摘されています(岡慎一・神山啓史『刑事弁護の基礎知識』(有斐閣、2015年)62頁。なお、法科大学院の「刑事裁判実務の基礎」の試験答案等でも同書63頁の記載例は大変参考になりますので、学生の方でも、一度ご覧になるのがよろしいかと思います)

はじめの「類型該当性」ですが、これまでは検察官請求証拠の証明力とかかわりそうな証拠を「勘で」あてにいっていました。なぜならば、検察官がいかなる証拠を持っているかなんて、わかるはずがないからです(一種の情報の非対称性)。捜査機関の立ち回りを十分に理解している人間でなければ、類型証拠開示請求は使いこなせなかったのです。そこで、このような情報の非対称性(証拠の偏在)を是正するため、今回の刑訴法改正では、検察官は、検察官請求証拠の開示後、弁護人の請求により「検察官が保管する証拠の一覧表」を交付しなければならないことになりました(刑訴法316条の14第2項)

続いて、当該証拠について、刑訴法316条の15第1項各号の該当性を判断します(下表参照)。改正後は、検察官保管証拠の一覧表が交付されることにより、証拠の抜け漏れのこわさはかなり軽減されるはずです。ただ、結局のところ、中身まではわからないので、使いにくいことは否定できません。

【表】

類型 具体例(※記載例でない) 備考
証拠物 指紋・血痕等の遺留採取物、それらの写真(捜査報告書等)、パソコン・携帯電話等の記録媒体自体 通話履歴等のデータ(の印刷物)を含む
裁判官の検証   ぶっちゃけ使わない
捜査官の検証 捜査報告書、実況見分調書 証拠物とセット(遺留物採取情況の実況見分調書等)
鑑定書 そのまま 証拠物とセット(遺留物の鑑定等)
5イ 証人尋問   あんまり使わない
5ロ 供述録取書等不同意 関係者や担当する被告人以外の者のPS、KS等 とてもよく使う
5号以外 請求されてない人(他の捜査対象者等)の供述書や捜査報告書等 5号とは検察官の証拠請求の有無で区別。証拠単位で相対的に判断する
被告人の供述録取書等 PS、KS、弁録等 録録の記録媒体を含む
取調状況報告書 取調状況記録書面 任意性判断に使う。改正により共犯まで開示範囲が拡張された
押収手続記録書面 押収手続記録書面(差押調書・領置調書) 検察官請求証拠にかかる書面のみが対象

(※PS:検察官面前調書、KS:警察官面前調書) 

改正前はひたすら「勘」だったのですが、改正後は検察官が保管する証拠の一覧表があるので、開示すべき証拠を探索的に検討することも一応、可能となりました。でも中身がわからな(ry

次に、「証拠の重要性」の要件ですが、検察官請求証拠の証明力を判断するにあたって重要であることを要します。たとえば、主張の一貫性供述の変遷などの「供述の信用性」を判断するために重要であるとの主張をすることになるわけです。この要件が問題になった例は、今のところ聞きません。

で、最後に「開示の相当性」の要件ですが、要するに、開示の必要性と開示の弊害との比較衡量の問題です。この要件が問題になった例も、今のところ聞きません。

2 補充的押収手続記録書面開示請求(刑訴法316条の15第2項)

改正により新設。なかなかややこしいですが、前述の類型証拠開示で請求できる差押調書・領置調書はもっぱら「検察官が請求した証拠物」にかかるものに限られていたのに対して、本請求では、「類型証拠開示請求で開示すべき証拠物」について、さらにその差押調書・領置調書の開示請求が可能になりました。

3 主張関連証拠開示(刑訴法316条の20)

続いて、弁護人としては、刑訴法316条の20第1項に基づき、検察官に対して、「主張関連証拠開示請求」を行うことが考えられます。

類型証拠開示がいろいろ複雑なのに対して、主張関連証拠開示は比較的簡単です。要件は、①主張関連性と②開示の相当性だけです。とりあえず、自身の主張と関連していればOKです。実際には、違法収集証拠排除法則の適用にあたって、この請求が利用されることが多いみたいです。 

というわけでしたー(あっさり)

▼記事中の引用文献

刑事弁護の基礎知識

刑事弁護の基礎知識

 

 

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