緋色の7年間

制約を原動力に。法律事務所の弁護士と大手企業の法務担当者が、時に制約と闘い、時に制約を迂回していきます。

詐欺罪と重要事項性〜特にチケット転売行為について

こんにちは〜

本日のテーマは、詐欺罪(刑法246条)の「欺罔行為」です。約1年ぶりに刑法分野の論点です(刑法ブログだけど)

どうでもいいんですけれど、この業界、他人の悪口を言う人(というか無駄にプライド高い人)が異常に多いので、関係者の発言は適度に割り引いて受け取る必要があります。というか、「私はこの問題に対して〜と思います。」という趣旨のセカンド・オピニオンを超えて特定の同業者を叩くのはどうかと思うんですけど(弁護士職務基本規程70条参照)。さらに言えば、専門家が非専門家(たとえば、記者)を馬鹿にするとかプロとして最悪では。ああいう人たちになりたくないと思うのは私だけでしょうか。

知ってる人は知ってますが、専門家ドグマというのがあって、専門家と非専門家が喧嘩したら絶対に専門家が悪いんですよ、いや本当は悪くなくても。情報持ってるほうが強いに決まっているので、だからこそ職業としてある種の倫理やら誠実さやらが求められているのです(規程5条参照)。それでも偉そうな態度とられたら、「あんたの業界まだファックス使ってんの?」とか「英語も喋れないの?」とか「プログラム言語のひとつも書けないの?」とか言っとけば、だいたい黙ります(ブーメランこわい)。ほんと闇が深いよね、この業界。

ということで、人間、謙虚さが一番。あとは、折れない心とスルースキル、他人の矛盾を許容する寛容さ。

1 「欺いて」の意義と詐欺罪の社会的法益

本題です。

従来、欺罔行為とは、シンプルに、財物の交付判断(財産上の利益移転判断)に向けられた偽る行為だと考えられてきました。現在では、欺罔行為とは、財物の交付判断の基礎となる重要な事項を偽ることをいいます(西田・各論193頁、井田・各論258頁参照)。すなわち、欺罔行為の定義につき、偽る対象の「重要事項性」が明確に意識されることとなったのです。

それはなぜか。

これに対する回答は、大雑把に言えば、「詐欺罪の社会的法益化が進んでいるから」です。欺罔行為にあたるかどうかを判断するときの問題意識は、ここに置かれています。

本来、詐欺罪は個別財産に対する罪であって、個人的法益に関する罪です。だからこそ、明示的に条文の文言になかった「財産上の損害」を構成要件要素として要求する見解が有力だったわけです。ところが、判例は多少実質的な判断を取り入れているとはいえ基本的には財物の交付自体を損害と捉えているようであり(形式説)、そうすると、対価給付があっても詐欺罪が成立する余地が出てきてしまうわけです。そして、この問題について、判例は、財産的損害の要件を実質的に理解することで処罰範囲を絞ろうとするのではなく、欺罔行為の要件のほうで処罰範囲を絞る方向に流れました。その絞り込みの概念が「重要事項性」なのです。つまり、判断として純粋な財産的観点から離れることになり、犯罪類型として一種の社会的利益を保護法益の中に取り込むことになるのです、理屈的には。たとえば、暴排・反社対策の利益など。「普通は」契約の相手方が反社でもそれだけで財産的損害は生じないはずですが、それでは何が基準となっているのでしょうか?

2 重要事項性の有無

一応、民事法的な前提を押さえてから中身に入ります。

反社条項は、いわゆる「表明保証条項」という英米契約法概念に基づき反社会的勢力を取引から排除する(日本法的には当該契約の無効・取消事由や解除事由とする)ものです。一定期間の作為または不作為を義務付ける「誓約条項コベナンツ)」とは異なり、特定の一時点における事実状態を保証(※損失補償条項とセットになっている。人的担保の意ではない。)する条項です(なお、違反した際の効果がどこまで認められるのかは不明。DDに関する地裁の判断意味不明)。言ってみれば、表明保証が「点」で、誓約が「線」です。点と線、松本せ(ry

そこで、反社条項が入っているゴルフ場利用規約や賃貸借契約書を知りつつ、反社ではないと偽ってゴルフ場会員となったりアパートを借りたりすることは、詐欺罪(詐欺利得罪)を構成するでしょうか? ここにいう財産的損害って何なのでしょう? あとついでに有印私文書偽造罪・同行使罪が成立するのでしょうか?(※筆者注:問いは投げっぱなしで回収されません。)

判例は、利用規約に反社条項が入っているだけでは、重要事項性を認めません。暴排条例の制定・運用状況とか、個別に要求される誓約書(「私は反社ではありません。」)の署名・押印とか、反社排除のポスター・看板(「暴力団の入場お断り」)の設置など諸々の事情があって、はじめて重要事項だと考えているようです。

ともかくも、ここでは、財産的損害がどうというより、言ってみれば反社条項違反の態様・程度が処罰を決定づけているわけです。これが個別財産罪だと……?

3 チケット転売問題と欺罔行為

欺罔行為(重要事項性判断)との関係で近時問題とされるべきなのは、チケットの高額転売です。とりあえず古物営業法とか条例とかめんどくさい話は置いておきます。

たとえば、ライブ等の主催者はライブチケット(の定型約款)に譲渡禁止特約をつけたりしますが、これに反してチケットを高額転売する意図で購入する行為は、欺罔行為にあたるのでしょうか。

転売行為自体は卸売業というかビジネスの基本なわけで。もはや主軸ではないにせよ、商社とかまさに転売で儲けているわけで。取引の安全ってなんだっけ。……というかんじで、そもそもチケットの流通を制限する合理的な理由がないのではないか疑惑というのがありますし、転得者に対する入場拒否自体も論点ですけれど、つまり判断が微妙です。重要な事項って「何にとって」重要な事項なんでしょうかね。本当に財産的な観点から離れていいのでしょうか。本当に被害者の関心を基準にしていいのでしょうか。

さあ、みんなで考えよう(なげやり)。

 

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