こんにちは~
今回は、刑事法の体系について書いてみたいと思います。刑事法の体系について理解すれば、刑法がどのような法なのかも理解しやすくなると思います。
現在の刑事法は、大きく3つのカテゴリーで構成されています。第一のカテゴリーが実体法である刑法、第二のカテゴリーが手続法である刑事訴訟法です。この2つの法は、よく「車の両輪」と呼ばれていまして、つまり、一方だけの理解では意味がないと言われています。これらに加えて、刑事法体系にはもうひとつ、刑事政策というカテゴリーがあります。これは、刑法や刑事訴訟法とは違って、必ずしも実定法だけではないのですが、現実の犯罪事象に対するアプローチのひとつとして確立しつつあります。そういうわけで、刑法、刑事訴訟法、刑事政策の3つのカテゴリーによって、刑事法体系が構成されているのです。もっと細かいカテゴリーまで含めて図式化すると、以下のようなかんじです。
けっこうシンプルでしょ? 刑法(特に刑法典)は、「罪」と「罰」について書かれていまして、これらを言い換えると、刑法とは「犯罪」と「刑罰」についての法だということになります。法学の基本は、一定の条件(P)を満たすと、一定の効果(Q)を生じるという命題(P→Q)にあります。この条件を「法律要件」と呼び、この効果を「法律効果」と呼ぶのでした。刑法では、犯罪という法律要件が充足されれば、国家に刑罰権という法律効果が発生するのです。
ただ、どういう場合に国家権力たる刑罰が科されるのかが分からなければ、私たちは何を行っていいのかわかりません。何より、暴力的になりかねない国家権力を民主的に制定された法律で拘束する必要があります。そこで、「犯罪」という法律要件と「刑罰」という法律効果は、事前に法律によって定めておかなければいけないことになっています(罪刑法定主義)。したがいまして、犯罪も刑罰も、基本的には刑法の条文を見ればすべてわかるようになっているはずなのです。とはいえ、どれだけ条文の文言を明確にしても、言語的なあいまいさは残ってしまうので、何がその犯罪にあたるのか、どのような刑罰が科されるべきなのかといったことを論じる必要が出てきます。それらを論じる領域が、犯罪論と刑罰論なのです。
主に刑法で議論されるのは、犯罪論のほうです。教科書(基本書)でも、犯罪論に多くのページ数が割かれています。学部の講義などでは、「刑法総論」と「刑法各論」という名前の科目があると思いますが、まずは刑法各論がどういったものなのかを理解すればいいかと思います。刑法各論は、個別の犯罪の成立要件(厳密には違うのですが、これを構成要件と呼びます)を論じる分野です。これに対して、刑法総論は、個々の犯罪に共通する要件やそれを修正する規定について論じた分野です。刑法各論がタテ割りの議論なら、刑法総論はヨコ割りの議論だと言えるでしょう。
ただ、実務では法解釈論で争われることは多くなく、事実認定で争うことのほうが多くなります。抽象性の高い刑法総論は、ほとんど出番がないことも事実です。しかし、刑法総論では、原理レベル(プリンシプル・ベース)の思考を習得することに意味がありますので、法改正や新しい犯罪などに対して十分な対応ができるようにするためには、やはり重要な分野だと言えるでしょう。また、事案が複雑になるほど、総論的な思考方法が重要になってきます。犯罪論は、刑法総論と刑法各論とが複雑に絡み合って成立していますから、どちらか一方に偏りすぎないことが大切です。
ちなみに、刑事政策学の第一人者である藤本先生は、以下のように体系を構想しています(藤本哲也『刑事政策概論(全訂第六版)』(青林書房、2008年)13頁)。これもスマートな整理の仕方ですね~