本日は、市販されている演習書における採点基準の自作について考えてみます。
自分で採点基準をつくってみると勉強の仕方が変わる……かも、といういい加減な発想に基づき、今回は、演習書の採点基準を(勝手に)つくってみます。
というわけで、粟田知穂先生の『エクササイズ刑事訴訟法』の第1問を例に、同問題の採点基準をつくってみましょう。一度自分で解いてみて、同書の解説を読んだ後に、お手元に同書を置いて本記事をお読みください。
採点基準をつくるといっても別にたいそうな話ではなく、同書の解説中で触れられている条文番号、条文の文言、規範、理由づけ、あてはめ段階における事実、評価などの項目を一覧的に列挙するだけです。あとはカテゴライズして、大まかな配点を決めて、各項目に1~2点くらいの得点をささっと割り振って終わりです。とっても簡単。項目として足りない部分は、判例解説とか基本書とかから引っ張ってきてください。すべて機械的な作業でけっこうです。
で、実際に機械的につくってみると、以下のようなかんじになります。
【採点基準・配点表(自作)】
〔設問1〕 50点満点 | |||
1.尾行行為(15点) | |||
枠 | 採点項目 | 得点 | 備考 |
強制捜査 | 条文摘示 | 1 |
条だけでなく、項、但書まで書いて1点。 条、項だけだと0.5点。 |
文言摘示 | 1 | ||
「強制の処分」の意義 | 2 |
判例は「強制手段」の定義しかしていないので、 これをそのまま用いた場合には1点。 |
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外出時にのみ行われたこと | 1 |
事実の摘示で0.5点、その上で適切な評価があれば1点。 任意捜査でも触れれば内容に応じて1点の限度で加点する。 以下、同様とする。 |
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相手方に知らせていないこと | 1 | ||
屋外であること | 1 | ||
任意捜査 | 要件 | 2 |
必要性、緊急性、相当性の3つを全部書いて2点。 どれかを欠く場合には1点。 |
理由 | 1 | ||
強盗殺人事件であること | 1 | ||
犯人が検挙されていないこと | 1 | ||
借金をめぐるやりとりの存在 | 1 | ||
事件発生時との時間的近接性 | 1 | ||
2.領置行為(10点) | |||
枠 | 採点項目 | 得点 | 備考 |
領置 | 条文摘示 | 1 | |
文言摘示 | 1 | ||
「遺留した物」の意義 | 1 | ||
他者から中身を見られないとの期待の存在 | 1 | ||
プライバシー侵害との関係性 | 3 | ||
本人による占有の放棄 | 1 | 本人によることで0.5点、占有の放棄で0.5点。 | |
公道上のごみ集積場であること | 1 | ||
領置の必要性 | 1 | ||
3.任意同行・任意取調べ(25点) | |||
枠 | 採点項目 | 得点 | 備考 |
任意同行 | 任意同行を求める根拠 | 2 | |
強制性の有無の検討 | 2 |
前の論点と重複するのでその旨を述べれば1点。 任意取調べについて同様であることにつき1点。 |
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任意捜査の限界の検討 | 2 | 同上。 | |
自主的に乗車したこと | 1 | ||
警察官が両脇を挟む形になったこと | 1 | ||
血痕の検出とDNA型鑑定の結果 | 1 | ||
任意取調べ | 任意取調べを求める根拠 | 2 | |
居住地が遠方でないこと | 1 | ||
同フロアで警察官が監視していたこと | 1 | ||
警察官による送迎が行われたこと | 1 | ||
宿泊費用は警察署が負担したこと | 1 | ||
取調べ時間が長いこと | 3 | 通常点のほか、判例の内容に触れれば2点加える。 | |
容疑が強まっていること | 1 | ||
強盗殺人事件であること | 1 | ||
供述態度の変遷があること | 1 | ||
自発的に宿泊の申出があったこと | 1 | ||
取調べの中で事件への関与を認めたこと | 1 | ||
取調べの拒否や帰宅要請がなかったこと | 2 | ||
〔設問2〕 50点満点 | |||
1.司法警察員面前調書の証拠能力(20点) | |||
〔以下略〕 |
(※念を押しておきますが、同書には、採点基準は掲載されていません。同書の解説部分=採点基準というわけでもありません。本ブログで勝手に想像して勝手に作っているだけですので、実際の著者の意図と異なるところが多々あると思われます。また、同書中に記載のないことも上の採点基準には書いてあります。)
…
「強制の処分」の意義で、たった2点/100点…?
という、つくってみてはじめてわかる衝撃の事実。
強制処分性にはいろいろ判例の分析がなされているところですが、どれだけ丁寧に分析しても、答案では2点ということです。ええ。わけもわからずてきとうに論パを貼り付けても、学術論文を大量に読み込んで書いても、等しく2点です(試験の不条理)。
あー、えーと、要するに、教訓として、試験対策という点では、リソースの配分を間違えないでね、ということですかね。実際の採点では、論理展開とか、結論の適切さとか、事実評価の巧拙とか、理解の深さとか、字のきれいさとか、その他いろいろな裁量点又は裁量点に準ずる得点が加えられたり引かれたりするものと思われます。が、どういう採点基準の作り方をしても基本的な配点表は上のようなイメージのものができるはずです。期末試験では、もう少し緻密で細かいものだと思われます。司法試験では小数点で刻めるくらいもっと細かいはずです(たぶん)。裁量点に関しては、採点する側としても公正さの観点からして下手を打つのがこわいので躊躇われます。ですから、上述のような機械的な作業でつくったとりあえずな採点基準でも、意外と使い物になるわけです(きっと)。少なくとも、演習書で直接的に触れられている要素は、網羅的に把握することができると思われます。
ちなみに、上の問題について、自分で問題を2時間でフルスケール起案した後に自分で採点基準をつくって採点をした結果、50点/100点でした…orz
自分で採点基準をつくって点数低いと凹みますねぇ…。試験問題をつくっている先生方も、ぜひご自分でつくった問題をご自分で解いて、ご自分で作った採点基準で採点されてはいかがでしょうか~ きっと凹みますよ~