こんにちは~
お久しぶりです。あけましておめでとうございます(真剣にネタ切れでした)。
今回は「承継的共同正犯」がテーマです。
起案等では承継的共同正犯を肯定する見解で論証をしていた方もいらっしゃるかと思いますが、平成24年判例が出てきましたので、判例で書く場合には(少なくとも傷害罪については)承継的共同正犯を否定する見解に立たなくてはならなくなりました。もちろん、同判例の射程がどこまで及ぶのかということは、別途検討を要するところです。
では、とりあえず判例を読んでみましょう。これも事例判断なので、事実関係を全部読まなくてはなりません…
1 原判決及びその是認する第1審判決の認定並びに記録によれば,本件の事実関係は,次のとおりである。
(1) A及びB(以下「Aら」という。)は,平成22年5月26日午前3時頃,愛媛県伊予市内の携帯電話販売店に隣接する駐車場又はその付近において,同店に誘い出したC及びD(以下「Cら」という。)に対し,暴行を加えた。その態様は,Dに対し,複数回手拳で顔面を殴打し,顔面や腹部を膝蹴りし,足をのぼり旗の支柱で殴打し,背中をドライバーで突くなどし,Cに対し,右手の親指辺りを石で殴打したほか,複数回手拳で殴り,足で蹴り,背中をドライバーで突くなどするというものであった。
(2) Aらは,Dを車のトランクに押し込み,Cも車に乗せ,松山市内の別の駐車場(以下「本件現場」という。)に向かった。その際,Bは,被告人がかねてよりCを捜していたのを知っていたことから,同日午前3時50分頃,被告人に対し,これからCを連れて本件現場に行く旨を伝えた。
(3) Aらは,本件現場に到着後,Cらに対し,更に暴行を加えた。その態様は,Dに対し,ドライバーの柄で頭を殴打し,金属製はしごや角材を上半身に向かって投げつけたほか,複数回手拳で殴ったり足で蹴ったりし,Cに対し,金属製はしごを投げつけたほか,複数回手拳で殴ったり足で蹴ったりするというものであった。これらの一連の暴行により,Cらは,被告人の本件現場到着前から流血し,負傷していた。
(4) 同日午前4時過ぎ頃,被告人は,本件現場に到着し,CらがAらから暴行を受けて逃走や抵抗が困難であることを認識しつつAらと共謀の上,Cらに対し,暴行を加えた。その態様は,Dに対し,被告人が,角材で背中,腹,足などを殴打し,頭や腹を足で蹴り,金属製はしごを何度も投げつけるなどしたほか,Aらが足で蹴ったり,Bが金属製はしごで叩いたりし,Cに対し,被告人が,金属製はしごや角材や手拳で頭,肩,背中などを多数回殴打し,Aに押さえさせたCの足を金属製はしごで殴打するなどしたほか,Aが角材で肩を叩くなどするというものであった。被告人らの暴行は同日午前5時頃まで続いたが,共謀加担後に加えられた被告人の暴行の方がそれ以前のAらの暴行よりも激しいものであった。
(5) 被告人の共謀加担前後にわたる一連の前記暴行の結果,Dは,約3週間の安静加療を要する見込みの頭部外傷擦過打撲,顔面両耳鼻部打撲擦過,両上肢・背部右肋骨・右肩甲部打撲擦過,両膝両下腿右足打撲擦過,頚椎捻挫,腰椎捻挫の傷害を負い,Cは,約6週間の安静加療を要する見込みの右母指基節骨骨折,全身打撲,頭部切挫創,両膝挫創の傷害を負った。2 原判決は,以上の事実関係を前提に,被告人は,Aらの行為及びこれによって生じた結果を認識,認容し,さらに,これを制裁目的による暴行という自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用する意思の下に,一罪関係にある傷害に途中から共謀加担し,上記行為等を現にそのような制裁の手段として利用したものであると認定した。その上で,原判決は,被告人は,被告人の共謀加担前のAらの暴行による傷害を含めた全体について,承継的共同正犯として責任を負うとの判断を示した。
(最決平成24年11月6日刑集66巻11号1281頁)
簡単に言えば、本件の被告人は、被害者が一定程度暴行された後に共謀し、暴行に加担したということで、このような場合にも傷害の結果すべてが帰責されるのかということが問題となったわけです。答案ならば、論じる順序としては「承継的共同正犯→同時傷害の特例」ということになるでしょうか。
本事案では、誰の行為からどの傷害結果が発生したのかは不明であることを確認してください。本事案では、最初の暴行開始時点と被告人の暴行開始時点とで時間差があり、したがって、傷害結果のすべてが先行行為者である共同者(Aら)に帰責されることは確定しています。
つまり、本事案においては、具体的には、①因果関係を持ちえない先行行為・結果「も」後行行為者に帰責されてもよいのか、後行行為が先行行為より激しいものであってもなおそう言えるのか(承継的共同正犯の問題)、②傷害結果が誰にも帰責されないことは不当だというのが同時傷害の特例の問題意識ですが、本事案のように時間差があり、誰かに帰責される場合でもなおその適用があるのか(同時傷害の特例の問題)、の2点が問題となるのです。抽象的に、承継的共同正犯と207条が問題となるのだと捉えるのはあまり好ましくありません。問題意識は具体的なところまで詰めておきましょう。
原審の判断を見てみましょう。原審は、承継的共同正犯の成立を肯定しました。その根拠は、
- 先行する行為及び結果の認識・認容
- 自己の犯罪遂行の手段としてそれを積極的に利用する意思
- 一罪関係にある傷害に途中から共謀し、加担しこと
- 現に自己の犯罪遂行の手段として利用したこと
の4つです。
これら4つの要素の体系的位置づけはなかなか難しいですが、①が「故意」、②と④は「正犯性」のような表現です。ただ、その内容は、本来の故意や正犯性の内容からは修正されていることが読み取れます。また、③では、「一罪関係」という点が強調されています。これらのことから原審の判断枠組みをまとめると、
- 先行行為・結果の認識・認容(故意の修正)
- 自己の犯罪遂行の手段としてそれを積極的に利用すること(正犯性の修正)
- 一罪関係
ということになるでしょう。
共同正犯の要件を、①共謀(故意)、②正犯行為と考えると、原審の判断枠組みは、おおまかには共同正犯の枠組みの修正として捉えることもできそうです。
ところが、本決定はこの枠組みを否定しました。この判断枠組みのどこに問題があるのでしょうか? 次回は、本決定の論理を考えてみましょう。
それではまた~