緋色の7年間

制約を原動力に。法律事務所の弁護士と大手企業の法務担当者が、時に制約と闘い、時に制約を迂回していきます。

絶望の共犯論

こんにちは~

過失犯後編で詰んだので、今回は共犯論です(え

一応、言い訳をしておきますと、過失犯は判例がわりと固まっている分野なので、新旧過失論の対立を扱っても深く踏み込む実益をあまり感じませんし、かといって予見可能性の程度や過失の標準の問題を扱おうとすると膨大な判例を整理することになるので、そこまでの気力が起きませんでした。見込みがゆるふわでした…(共犯は共犯で絶望するんですけどね…)

というわけで、過失犯後編は、もう少し考えさせてください…

◆共犯論 ― 「絶望の章」

で、「絶望の章」です(ドイツでそう言われます)。

理論的には、犯罪は原則として単独正犯が想定されており、共犯は例外的処罰という位置付けになっています。共犯は「修正された構成要件」だと言ってもよいでしょう。犯罪の検討順序としても、単独正犯で犯罪事象を評価しつくせない場合に、はじめて共犯関係の検討をすることになります。

いまさら説明するまでもないとは思いますが、共犯は、共同正犯(刑法60条)と狭義の共犯(61条以下)の2つのカテゴリーがあり、さらに、狭義の共犯には教唆犯(61条)と幇助犯(62条)の2つの下層カテゴリーがあります(とりあえず、ここでは刑法各論的な必要的共犯や、特定秘密保護法中の共謀罪の話は置いておきましょう)。このうち、従犯の刑が科されるという意味で量刑が軽くなるのは幇助犯だけです。

◆基本の確認

一応、念のため基本事項を確認しておきます。

共同正犯の本質は、因果性の相互的補充・拡張及び正犯としての帰責であることから、①共謀意思連絡及び正犯意思)、②共謀に基づく実行の2つが要件です。

現在の司法試験では、これ以上の論証は一切不要です。実行共同正犯も共謀共同正犯も同じ要件で構いません。というか、要件を変える理由がありません。

学説によっては、共謀から正犯意思要件を独立させ、「①共謀、②正犯意思、③それらに基づく実行」と考えたり、正犯性の客観的側面等を強調して「①共謀、②共謀に基づく実行、③実行行為に準ずる重要な役割/重大な因果的寄与/重要な加功/機能的行為支配」とするものもあります。

表現や判断順序はともかく、内容は基本的に全部同じなので、どのような見解を採用してもけっこうです。が、正犯意思説を採用する場合には、正犯意思要件の順序に気を付けてください。正犯意思を第三番目の要件とするのは誤りです。予備校の論証がそのあたりを間違えているので注意してください。

既にこのブログでは説明しましたが、正犯性の具体的内容は、原理的に解明できません(→「刑法解釈と他者関係性」参照)。いかなる立場をとろうともトートロジーになるので、深入りすると、同じところをぐるぐる回ることになります。これが理論的に「絶望」する理由です。

注意すべきこととしては、因果的共犯論は共同正犯の処罰根拠論ではないということと、因果的共犯論は結果無価値論とは何の関係もないということです。行為無価値論を採用するドイツの共犯論として輸入された因果的共犯論が、結果無価値論からしか採用できない共同正犯論となるわけがありません。このあたりは「大人の事情」が絡んでます…

◆ここまではいいのだが…

と、ここまでは受験生なら誰でも書けます。というか共同正犯の要件は書いてくれなきゃ困ります。

ところが、幇助犯あたりになってくると途端に書けなくなるのです。試験であまり出てこないからですかね…(司法試験には出されたことがありますから対策は必要です…)

で、万が一試験場で困ったとき、対処法を考えました。というか、最初からこうやって理解しておけばいいんじゃないかと思います。

対処法:下図を書く。

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上の図は、因果的共犯論を図式的に示したものです。困ったときは処罰根拠論に遡りましょう、というかんじで図を書いてみます。

因果的共犯論は、共同正犯を含めた共犯論全体における処罰根拠論であり、それによれば、共犯の処罰根拠は、正犯を介して因果的に結果を惹起したこと(による行為の危険性の再帰的確証)に求められます。「因果的に結果を惹起」というところから、因果的共犯論とか惹起説とか呼ばれています。

さらに、ここで判例・通説は混合惹起説を採用します(刑法の世界ではまれにみる通説ですね…!)。

「混合」というからには、何かと何かが合わさっているわけですが、それは次の2つです。

  • 正犯不法の惹起
  • 共犯不法の惹起

この2種類の「惹起」が合わさって混ざっていることから、混合惹起説と呼んでいるわけです(たぶん)。共犯の処罰根拠を不法の種類を区別せずに純粋に結果惹起だけだと考える立場を純粋惹起説とか呼びますが、混乱するだけなのでこのあたりはスルーしましょう。

で、図的にはこうなります。

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答案では、普通は正犯から検討しているでしょうから、上図①の「正犯不法」(青い部分)を改めて検討する必要はありません。そうすると、図的に共犯の抽象的要件は次の2つだとわかります。

  • 従属性
  • 共犯不法

正犯者が未成年者とかで責任無能力者だったりしない限り、(要素)従属性の問題もスルーできます。つまり、基本的に共犯不法だけを検討すればよいことになりますが、ここに落とし穴があります。たとえば、幇助犯の「共犯不法」を、上図を参考にさらに展開してみると、その要件は、

  1. 幇助行為
  2. 幇助の因果性・結果(正犯の実行行為を物理的又は心理的に容易にしたこと)
  3. 幇助の故意

というかんじになります。で、どこで落とし穴にはまるかというと、幇助の故意です。幇助の故意も、構成要件該当事実の認識(及び予見あるいは認容)ですから、幇助行為及び幇助の因果性の認識があれば足りるかというと、そうではないのです。正犯の実行行為を物理的・心理的に容易にしたことを認識するだけでは足りません。青い部分(正犯不法)の検討が既に終わっているとはいえ、故意は各々の行為者を基準に判断されますから、正犯不法を検討しても共犯者の故意の内容を検討したことにはならないのです。

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すなわち、幇助の故意は、正犯による正犯結果の惹起までの認識が要求されるということです。このあたりは司法試験の採点実感でも問題として指摘されています(→採点実感まとめ参照)。試験現場で何の認識が要求されるのかを忘れたら、とりあえず、上図を書きましょう。

ちなみに、共同正犯も同じ図で同じかんじで理解できます。

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これで少しは絶望しなくて済むでしょうか…?

それではまた~

 

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